第10回『このミス』大賞 1次通過作品
愛犬を殺した罪で父親を訴えた中学生。
やがて関係者たちの隠された思惑や秘密が明かされていく。
その奥に隠蔽された過去と真意とは?
『僕がお父さんを訴えた理由』 友井羊
夏休みのある日、中学1年生の向井光一が同級生・原村沙紗に聞かされたのは、光一の愛犬リクが血塗れで道に倒れているという知らせだった。リクは動物病院で息を引き取り、死因は人間の暴力だと医師に告げられた光一と沙紗は、犯人捜しの過程で“ある証拠”に辿り着く。光一は弁護士志望の青年・久保敦に相談し、リクを殺した犯人として父親の克己を訴えることにした。法定代理人を任された克己の(離婚調停中の)後妻・真季は、本気で裁判を受けようとしない克己に疑問を抱き、その理由を探ろうとするのだが……。
飼い犬を失った少年が父親を訴える話――という前半の展開はキャッチーなものだが、本作はそれだけでは終わらない。中盤以降はいくつもの意外な事実が明かされ、それらが隠蔽された過去を照らすことで、やがて裁判は真の姿を見せることになる。それぞれに思惑や秘密を持つ関係者たちを活写し、彼らの対話によってドラマを織り上げた著者は、情報を小出しにしながら不穏な気配を醸すというフェアな手続きを経て、クライマックスの逆転劇を鮮やかに演出している。真相を突きつけられた読者は、抑制の利いた読みやすい語り口もまた罠だったことに気付くはずだ。その柔らかさの中には複数の刃が仕込まれている。
事件の性質は万人受けするものではないが、訴求力のあるシチュエーションで読み手を惹きつけ、人々の心の綾を紡ぎながら伏線を張り、衝撃的な告白によって事実を晒すことでホワイダニットに収束させた手腕は素晴らしいの一言。いくつもの真相が推理ではなく“物証そのもの”だけで処理される点は惜しいが、全体的な完成度からすれば些事に過ぎまい。二次選考に強く推す次第である。
(福井健太)















