第10回『このミス』大賞 1次通過作品

町を牛耳るボスを警護することになった元警察官が
荒廃した町で気丈に暮らす人々の話を聞いてまわる。
彼らの証言から浮かぶ人生模様と、驚くべき結末!

『プルートーの降伏』 田中徹一

 元警察官の岡村は、町を牛耳るボスである雨野令治に呼び寄せられる。何者かの依頼によって、プロの暗殺者が雨野の命を狙い始めたというのだ。その計画を未然に防ぐのが岡村の仕事である。元は警察官であるとはいえ徒手空拳で何も頼るものを持たない岡村は、やむをえず町のひとびとから話を聞くことから仕事を開始する。彼が見たものは、残酷なボスに牛耳られたために陰をまとってしまった町の姿と、その中で気丈に暮らす人々のさまざまな人生の様子だった。
 ばらまかれたカードの中からジョーカーを探し出す話である。おそらく多くの読者が、本作を読んで伊坂幸太郎の某作品を連想するはずだ。一点の曇りもなく邪悪な男(変な表現だが)と、自らは力を誇示することなく、フェアに振舞うことによって物事を解決に導きたいと願っている主人公の対比は、いかにも伊坂チルドレンといった趣きである。作者には申し訳ないが、私も読んでいて失笑してしまうことが何度かあった。影響が誤解であり、まったくのオリジナルというのであれば申し訳ない。
 そうした欠点があるにも関わらず、本作には無視することのできない美点が多々あった。一つは多彩な脇役の存在である。邪悪なボスを頂くという不幸には見舞われていたものの、もともと町には非常に美しい景色があった。個性豊かなひとびとがその点景の中に配され、悲喜こもごもの人生模様を読者に対して示している。そうしたエピソードの一つひとつが楽しく、物語に引き込まれるのである。もう一つは、ワイルドカードの存在である。ある人物が「どう見ても怪しい奴」として登場してくる。その扱い方がおもしろく、作者の稚気を感じた。おそらく作者はミステリーが本当に好きな人なのだろう。物語の着地点も意外なところがあってよいものだった。良質の小説をたくさん書ける人だという気がする。期待をこめて今回は一次通過とさせていただきます。

(杉江松恋)

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