第10回『このミス』大賞 1次通過作品
大阪行きの深夜高速バスに乗ったはずが、
密閉された部屋に男性6人で監禁されることに!
3時間のタイムリミットが迫るなか、犯人の意図を探ることができるのか?
『僕が誰なのか、あててごらん』 黒木隆志
大阪行きの深夜高速バスに乗りこんだ高円寺が意識を取り戻すと、そこは窓のない密閉された部屋だった。彼を含めて6人の男たちがその部屋の中にはいた。年齢がばらばらの、同じバスに乗っていたという以外にはなんの共通点もない男たちだ。そのバスには他に女性の乗客もいたはずだが、部屋の中には見当たらなかった。そして、バスの運転手も姿がなかった。高円寺たちは、謎の監禁者の意図が何かを話し合いによって探ろうとする。
『僕が誰なのか、当ててごらん』という挑発的な題名を持つ小説は、このような場面から始まる。謎めいた冒頭だ。カジノのディーラーがカードをシャッフルするかのように、以下のような断章が高円寺の視点で綴られる文章の合間に挿入されていく。
――新興宗教団体・紫紺教の事務所で人質をとった立てこもり事件が発生する。紫紺教はテロリスト集団との関与が疑われる要注意団体で、立てこもった者だけではなく、現場に居合わせた者皆が常軌を逸したような言動に走っていた。残念なことに事件の解決は穏やかなものにはならず、貴重な人命が失われてしまう。
このエピソードはもちろん高円寺たちの運命を左右する、あるゲームの発端部に当たるものである。両者の関係が明かされたのち、意外なフーダニットの問いが発せられて「匣の中へ」と題された最初の章は終了する。
特殊なルールが適用されるゲームの中での謎解き小説である。3時間というタイムリミットが設定され、日常ではありえないような前提条件も呈示される。しかもゲームのルールがめまぐるしく変化していき、読者を混乱へと導いていくのである。信頼できない相手とする目隠し鬼のようなものだ。読者に安全索を与えようとしない、作者の性格の悪さが気に入った。書きぶりにややアンフェアに感じる箇所もあったが、これは修正可能だろう。
(杉江松恋)















