第9回『このミス』大賞 2次選考結果 村上貴史氏コメント

争いである。減点要素を減らす努力を!

 『完全なる首長竜の日』がいい。タイトルからして読書欲をそそる。導入部も素晴らしいし、そこから先の展開も魅力的だ。漫画家というキャラクター設定も活きている。着地も抜群に鮮やか。というわけでこれが一押し。
 というのが2次選考に臨む際の私の結論であった。どれを一押しにするかについては、まったく迷いがなかったのである。
 だが、そこから先がどうにも悩ましい。2次選考に残った20作のなかで最後に読んだ『完全なる首長竜の日』によって、それまでの19作のなかから選んでいた“最終候補作候補”がなんともかすんでしまったのである。
 かすんだとはいえ、もちろん、各作品には見るべきところがあったからこその“最終候補作候補”だ。それらのうち、まず『森のくまさん―TheBear―』でいえば、語り口が魅力。(1次予選の選評でも書いたが)こんな風にセリフと地の文を組み合わせてリズムを作り出すなんて、教えてできるものではない。素材として一級品だと感じた。そこまで尖った個性はないものの、理系ラブコメ『有機をもって恋をせよ』は人物配置やエピソードを並べる緩急のバランスに優れ、非常に愉しく読むことができた。十分な“最終候補作候補”である。『ホークウッドの亡霊』は、大仕掛けの着想にこそいささかの既視感はあるものの、それを伏せつつページをめくらせる力量はなかなか。哀切さを感じさせる場面もあり、最終候補とするにやぶさかではない。
 残りの最終候補作2作には、いささか不満もある。まず、インタビュー形式で構成された『羽根と鎖』だが、インタビュアーが話を聞くことに徹している点が気になった。結末まで読んでみると、インタビュアーは、取材相手の何人かとはもっともっと深い双方向の会話をしていてもよかったはずと思えてくるのだ。とはいえ、『告白』や『毒殺魔の教室』を知っている読者には「またか」と思われがちなスタイルを採用しつつ、それをきっちりと結末まで導いた手腕や、数多くのインタビュー相手をしっかりと造形した筆力は確かに優れており、最終候補とすることに賛同した。『ハナカマキリの変容』は、悪役の犯行があまりにも首尾よく繰り返される点に不満を覚えた。こんなにもうまくいくもんかいな、と。唯一心に響いたのは、視点人物が押し入れに逃げ込んでピンチを逃れるシーン。この場面の迫力はたしかに優れていた。とはいえ、それだけで全体構造の持つ欠陥を救えるわけではない。3すくみの構図(千街氏コメントを参照されたい)の結果としての最終候補作である。
 私は(『完全なる首長竜の日』を読むまでは)“最終候補作候補”と考えていたが、結果的に2次選考止まりだったのが、『漂流船』『青の錬金術』『悲しみのマリアは暁を待つ』『罠師参上』の4作。『漂流船』は、1次予選の選評で書いたように、あっさり味の冒険小説である。これを“軽冒険小説”として推したのだが、賛同を得られなかった。やはりこってり味を冒険小説読者は求めるというのである。和田頴太の『大森林の逃走』をはじめとするサウンド・ハンター・シリーズや樋口明雄の『WAT16ワットシックスティーン』、あるいはジョン・バカン『39階段』でもいだろう、そういうスピーディーな作品の愛好者には気に入られると思うのだが、残念。『青の錬金術』は、登場人物に関連性がありすぎた点が、最終選考進出を争う場では致命傷となった。序盤から中盤にかけては好評だっただけに、後半での自壊が惜しまれる。偶然に偶然と偶然を重ねる演出は、強敵揃いの2次選考会では通じなかった。『悲しみのマリアは暁を待つ』は18世紀のスペインを舞台とした作品。序盤はルビだらけで非常に読みにくかったのだが、徐々にそれに慣れてくると、物語を愉しめるようになってくる。大枠としては騙されてひどい目にあった連中が復讐する物語なのだが、そのクライマックスとなる法廷シーンがよい。この時代ならではのロジックを持ち出し、敵役を王手飛車取りとばかりに追い詰めていくのだ。このアイディアの冴えが非常に心地よかった。なので是非とも最終選考まで進ませたかったのだが、序盤の読みにくさは全く否めず、それが命取りとなった。『罠師参上』は、私が1次予選で別の作品を「次回作に期待」で紹介した著者の作品。完成度はこちらの方が高かった。罠師とその娘のキャラクターがよく、物語のテンポもよい。しかしながら、その罠師の凄味を伝えるための冒頭のエピソードに説得力がとにかく欠けていたのが大マイナスポイントであった。
 その他の作品は、これらより一枚も二枚も落ちる。『囁き』は、自殺の連鎖という着眼点が魅力的だが、まだまだ刈り込めたはず。おとぎばなしの様な作中世界の造形に好感が持てた『マーラーの機関車』だが、頻出する固有名詞があまりに万人向けでチープさが漂う。『アンドロメダからきた忍者 <新大統領はジョン・F・ケネディ・ジュニア>』は、話に元気がある点は非常に好ましいものの、小説としての描写ではなく説明文となっている箇所が多すぎた。SFアクション『デッドボディ・ワーキング』は、濃淡の調整に不満を感じた。兵器等のアイテムには必要以上の粒度で筆を費やす割に、身代金をめぐる攻防があっさりと“追跡は無事成功した”などという言葉で流されていたりする。前者の描写が近未来世界を構築するのに必要だということは許容できたとしても、後者の欠落は最終候補作とするには許容しがたい。こうした物語の面白味が欠けていたのでは、単なる箱庭を作っただけになってしまう。美少女キャラクターの言動がマンガチックな点も気になった。『アクセン・ト・』の導入部はいいが、善意悪意が標準偏差の範囲内に収まっていてインパクトに欠ける。伝記アクションとして過不足なくまとまっている『風土鬼』は、新人賞受賞作という位置付けを考えると、型を破るような新鮮味が乏しい。『幻を買う人』は暗号馬券やら競馬会の陰謀やらを、丹念に書き込んではいるが説得力に欠けた。『盾と爪』は父の疑惑を晴らそうと奮戦する息子を描いてそれなりに読ませるが、疑獄のシステムやら超人的肉体能力を持つ一握りの人物などにリアリティがなく、それが小説全体を萎えさせる結果に繋がった。『モンスター』は物語の根幹となるモンスター誕生があまりに荒唐無稽。『Azhem-ig.00』は最初から最後まで読みにくい上に意外性も余韻もない。
 落選作に共通するのが、さすがに1次を通過するだけの何らかの加点要素がある一方で、2次で落ちるのも仕方がないという減点要素もあるということである。いくら本賞が(他の賞より)加点要素を重視するとはいえ、選考会は、おおよその定数が決まったなかでの他の作品との争いである。自分の作品の加点要素に自信があるのならばなおのこと、減点要素を減らすべく努力すべきだろう。他の作品との勝負では、減点要素は致命傷となりかねない。作品の加点要素に甘えることのないようにされたい。

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