第9回『このミス』大賞 次回作に期待 村上貴史氏コメント

『僕は神を創らなければならない』岡辰郎
『吾輩と僕』乃木坂透
『その中に……(想像妊娠)』堀有光
『レディーボーイ』東西博奇

村上貴史コメント

 岡辰郎『僕は神を創らなければならない』が次点である。3DグラフィックスソフトMAYAを用いて、如何にリアルにコンピュータグラフィックス(CG)を作り上げていくかを追究していく様子が作品の大半を占めるという、ミステリとしてはなんとも異形の造りである。そんな地味なソフトウェア操作を、十分な緊迫感を持って読ませていく力量はなかなかのもの。問題は、そのコアを包み込む世界の側だ。天才的なゲーム開発者にして3DCGデザイナーである男性の助手を務めることになる女性を視点人物として描かれるこの作品において、彼等二人は、ドバイに拉致監禁された上、親しき者を人質に取ったとされながら、スーパーコンピュータクラスの機器を与えられて究極のCGを作り出すように求められている。こうした主人公を取り巻く世界が、CGグラフィックスに関するリアリティとは裏腹に、あまりにチープに構築されているのである。それが終盤で(しかも犯人側の告白という形で)明らかになるため、著しく興醒めしてしまう。閉鎖空間での単純作業においてスリルを維持する演出の巧みさや、物語全体を通しての描写力には優れた才能を感じさせるだけに、世界をもっともっと練り込んで欲しかった。
 その他、次回に期待するのは3作品。大学で起きた殺人事件を軸に、二つの視点で物語を綴った乃木坂透『吾輩と僕』のリーダビリティは抜群。探偵役を務めることになる作家志望の青年が近所で愛されている様子も好感が持てる。殺人者の心情描写もなかなか。だが、叙述トリックめいたギミックは不要だった。無理にミステリミステリした仕掛けを入れ込もうとするのではなく、キャラクター造形と、それらの人間関係のなかでの出来事を描いていけば、十分に読ませる作品に仕上がるだろう。堀有光『その中に……(想像妊娠)』の筆力も魅力であった。しかしながら、ミステリとしての構成に致命的な欠陥があったのである。一発ネタ的な仕掛けがこの作品のミステリとしての特徴だが、冒頭でヒントを出し過ぎているのである。結末まで読み進むと、序と跋を照応させるという趣向をやりたかったことがわかるが、この結果を導くのであれば、そうした表現への拘泥を避けた方がよかっただろう。また、ヒントを減らしてやったとしても中町信が数々の前例を残しており、さほどのメリットとなったとも思えない(中町信のプロローグとエピローグを照応させて衝撃を生じさせる手法については『空白の殺意』などを読むとよかろう)。自分のネタを活かしきることを最優先して、作品を考えて戴ければと思う。東西博奇『レディーボーイ』は、バンコクを舞台に性同一性障害を持った男が死んだ事件の真相を探る物語である。中心人物のキャラクター作りが巧みで読ませるし、異国描写も愉しい。1次通過作との差は、物語の進め方だろう。ストーリーに新鮮味が乏しく、メリハリも弱い。このあたりをどう磨いていくかが、次のステップに進むカギとなるだろう。
 その他、総論としてはまだまだ安直な表現が目についた。例えば、ある登場人物の仕事ぶりがプロフェッショナルであることを読者に伝える際などにそれが顕著だった。プロフェッショナルな仕事ぶりをきっちりと描いて読者に「さすがプロ」と感じさせるのではなく、地の文で「さすがプロ」と書いたり、あるいは会話のなかで「さすがプロですね」と別の人物に語らせたりして、それで一丁上がりという原稿が少なくない。また、台詞にしても、マンガから借りてきたような表現が散見される。「うそー」とか「ぎゃー」とかいう台詞に遭遇すると、思い切りガッカリさせられるのである。御自身の原稿にそうした安直さが残っていないか、それを再確認してから投稿して欲しい。なにしろ本賞は激戦区として名高いのだから。

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