第9回『このミス』大賞 次回作に期待 古山裕樹氏コメント

『海に契るドール』(高橋麻奈)
『小さな七つの幻想』(中谷睦)
『地図にない国』(鈴木沢雉)
『エクスカリバー』(福田竜次)

古山裕樹コメント

 高橋麻奈『海に契るドール』は、斜陽の人形工場に漂う、澱んだ空気が忘れがたい作品。いくつかの事件が複合した物語だが、個々の真相の解明が他の要素と響き合うことがなく、小粒で不完全燃焼という印象をぬぐえなかった。ただし描写は秀逸で、ミステリという様式にこだわらなければ、さらに優れた作品を書けるのではないかと感じた。
 中谷睦『小さな七つの幻想』は、あるテーマパークを訪れた人々の運命が交錯する様子を描いた物語。小さなパーツが組み合わせられて大きな図を織りなす……という趣向に見合った構築がなされていたものの、要素どうしのつながりが複雑なこともあり、全体像が明かされたときのカタルシスが弱くなってしまったのが惜しまれる。要素どうしの関わり方や、クライマックスでの全体像の提示など、見せ方を工夫されるとよいのでは……と思う。
 鈴木沢雉『地図にない国』は、トロイの木馬を相手方のネットワークに仕掛けるプロセスや、プログラムに特異な能力を発揮するイディオ・サヴァンなど、ストーリーを構成するアイデアが強く印象に残った作品だ。ただし、ヒロインの友人のおしゃべりをはじめ、せっかく醸成したサスペンスを自ら破壊してしまうところが目立ったのが残念。
 福田竜次『エクスカリバー』は、町工場の技術でロケット作りにチャレンジする物語。技術的な難題を解決するプロセスを中心に据えた、「ただロケットを作るだけの話」を目指したようだが、焦点が揺らいでしまったのがもったいない。クライマックスに陳腐なテロリストを登場させるくらいなら、むしろ人物造形をストーリーとうまくかみ合わせてほしかった。
 また、応募作品の全体を通じて気になったことが一つ。
 皆さん、原稿を印刷する前に、誤字・脱字のたぐいを見直しておきましょう!
 締め切り間際で急いでいたのだと思われるが、「しかし」「やはり」が「しkし」「やhり」になっていたり、野球ミステリだというのに「甲子園」の表記を何回も間違えていたり、さらには主人公の名前の表記が統一されていない……と、単純な誤字が大量に目立つ作品がいくつか見られた。
 他の人に読ませるためのものである……という意識をお忘れなく。

通過作品一覧に戻る