第9回『このミス』大賞 次回作に期待 福井健太氏コメント

『新世界にようこそ』(星野亜記)
『大海嘯』(小真島ナン)
『エンケージリング』(境有限)

福井健太コメント

 募集要項に明記されている通り、本賞は「エンターテインメントを第一義の目的とした広義のミステリー」を対象としている。この曖昧な表現からも解るように、他のジャンル小説の要素を含むことに支障はない。今年度の期待作にはSF風の物語が並んだが、これが偶然であることは最初に断っておこう。重要なのはスタイルやジャンルではなく、あくまでも作品の面白さなのである。
 星野亜記『新世界にようこそ』は未来社会を舞台にした仮想空間モノ。砂漠化した地球に暮らす人々は「新世界」と呼ばれるバーチャル空間に没頭しており、食品製造業者のアダムも「新世界」に家庭を持っていた。死者のアバターを消去する「幽霊狩り」を目撃したアダムは、友人の娘の「幽霊」に助けを求められ、やがて大胆な意識の転換を迎えることになる。仮想空間の設定はすこぶる凡庸だが、禅体験や戦国エリアのユニークさは印象的。この結末を発端として「次の段階」の話に挑むのも手かもしれない。
 小真島ナン『大海嘯』は地下世界の少年を描くユニークな青春小説。父親の転任によって地下の「ゲッコー・ドーム」へ引っ越した中学生のタイチは、地上と地下の軋轢に晒されながらも、そこで出逢った少女リンに花火を見せたいと考える。しかしテロを警戒するドームでは火薬が手に入らなかった。少女のために努力しながらも、人々の対立に翻弄され、自らも犯罪に荷担してしまい、無力感だけが残される——というシビアな展開と、それを淡々と独白させる語り口は高く評価したい。この乾いたセンスは武器になり得るはずだ。
 境有限『エンケージリング』は異様なイベントの顛末を綴ったサスペンス。婚活サイト「エンケージ」の主催パーティには「プロポーズして振られた者、または3日以内に結婚できなかった者には、死んでもらう」という規則があった。介護ヘルパーの武内智子は、無事に結婚して生き延びられるのだろうか? 結婚しないと死、しかも(最初に男性が死亡するので)女性のほうが人数が多い——というシチュエーションは目を引くが、荒唐無稽ぶりは許容するにせよ、プロットにはやや退屈な印象が残る。婚活とデスゲームを絡めた着想が秀逸なだけに、個々のバトルや結末にも捻りが欲しいところだ。

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