第9回『このミス』大賞 次回作に期待 杉江松恋氏コメント

『ロリコンは死ね〜日常からこぼれ落ちる雫』田仲智
『ヘルムを北に』黒伊折平
『マリオネットの涙』関田達也
『黄金の勇者』長瀬遼

杉江松恋コメント

 田仲智『ロリコンは死ね〜日常からこぼれ落ちる雫』は、日常の謎を解き明かす小さな物語を重ね、しめくくりに全体を貫くエピソードを置いて長篇化するという構成の作品だった。連作小説は別に突飛な形式ではなく、昨今のミステリーでは当たり前に用いられるものだ。そこで作者に問いたいのは、なぜこの形式を選んだのかということである。単に短篇を並べ、強引に一つの作品としてまとめたような、志の低さを私は感じた。それまでの謎解き(ロリコン青年が少女たちの抱える闇を解明する)は結構読ませるものなのに、最後のエピソードで興醒めとなる。そんなことをされるのなら、連作長篇になどしてもらいたくなかった、というのが正直な感想だ。落ちにまったく意味がない。この作者に必要なのは、完成図から逆算して土台を積み重ねていくような、計画性のある執筆方法だと強く感じた。
 黒伊折平『ヘルムを北に』はヨットによる航海の場面などを含んだ、正統的な冒険小説である。その点は高く評価する。個々の描写は力強く、読まされるものであった。弱点を挙げるとすれば、栄吉という物語の真の主人公である登場人物に比べて、その伴走者である語り手に魅力がないことである。彼の影が薄いために、いくつかあるエピソードのつながりが弱く、出来事をただ連ねたような印象になってしまっている。
 関田達也『マリオネットの涙』は、壮大な規模の「操り」を描いた作品である。背景に潜んでいる人物が意外な素性であるため、物語に一応の驚きはある。しかし、こうした形で「操り」を行い、社会に変革をもたらそうとした人物の物語は、他にもいくらでもある。私はこうした表現を好まないが、いわゆる「社会派推理小説」の常道にさえなっている観があるのだ。作者が思っている以上に、この小説は「ありきたり」である。落ち以外の部分に新味があればまた評価も変わったが、残念ながらその部分はさらに凡庸だった。
 長瀬遼『黄金の勇者』は、埋蔵金伝説にまつわる物語である。お宝を発見することによって町起こしをする、という着想が序章と終章に置いただけの飾りになっているのがまず問題で、それを抜くと平凡な冒険小説にすぎない。次から次に事件は起きるのだが、連なりに意味がない。スリルもサスペンスも盛り上がりにかけるのは、物語に牽引力がないためであり、構成を最初から間違えているからである。力量ある書き手だと思うだけに残念。
 以上、4作品が1次選考通過作品に次ぐものだった。お断りしておくならば、ここに採り上げなかった中には、すでに他社で複数の商業出版をしている書き手、新人賞受賞経験者の作品もあった。どれもこの4作よりは落ちる出来だったのである。デビューの機会自体は飛躍的に増え、誰もが横並びの状態にある。既存の作家にしてみれば地位がおびやかされやすいということだが、これからデビューする側から見れば上でつかえている者を引きずり下ろすことができるということである。チャンスは均等にあります。ますますのご精進を。

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