第9回『このミス』大賞 次回作に期待 北原尚彦氏コメント

『潜在生命』(夢野竹輪)
『停止した世界』(大聖寺修平)
『天誅殺』(大聖寺修平)
『アグリの星』(森山五丈)
『エンジェルクラフト』(諌山裕)

北原尚彦コメント

 梗概について一言。今回「……があって、そして……が起こって……」と、発生する事象を追っただけのものが幾つかありました。梗概も、選考における判断ポイントのひとつです。ただ筋を概説するのではなく、起承転結をはっきりとさせて“面白そうに”書いてください。それができないようでは、受賞する実力もないということです。
それから作品本体について。これはあくまで物理的テクニックですが、プリントアウトの際に文字と文字の間隔を狭く設定しましょう。文字間隔が広いと、読みにくくなってしまいます。原稿用紙に印字した人もいましたが、これもかえって読みにくいだけです。
 またそれ以前の「改行したら一文字下げる」など、文章作法の基本もきちんと守って下さい。
 さて。今回、2次選考へと通すにはいまひとつ(=次回作に期待)というレベルの作品が多かった。
まずは『潜在生命』(夢野竹輪)。ひとり歩きの女性を石で殴って金品を奪うことで収入を得ていた酒井一馬。ある時、またしても女性を襲おうとしたところ、逆に無理矢理自動車に乗せられ、どこかに運ばれる。ベッドに拘束された状態で意識を取り戻した一馬は、これがある種のスカウトであることを告げられる。それから彼は様々な精神的カリキュラムを与えられる……。
 独特の味はあるのだが、文章表現に不自然なところがあり、読んでいていちいち引っかかってしまう。またストーリー展開のバランスも悪いので、骨格の段階でもっと計算しておくべきだろう。独自性を生かしつつ、もっと洗練させて欲しい。
 次は『停止した世界』(大聖寺修平)。社会見学に出かけた中学生数十人が、いきなりおかしな世界に迷い込む。そこは、数百年前から時間が停止した世界だった。彼らはその世界の住人に助けられ、脱出を目指すが……という話。文章もきちんと構築できているし、キャラクター造形も悪くないけれども、世界観の設定が中途半端で、それが最後まで足を引っ張った。「時間が停止している」という意味合いが、ストーリーに都合のよいように決められており、リアリティを感じられなかった。また、その世界の住人の食糧調達法は簡単に予想でき、それを明かされても全く衝撃的ではない。もっときちんと設定するか、逆に「何でもアリ」なシチュエーションを考えるかしたほうがよいと思われる。
同じく大聖寺修平の『天誅殺』。警察官僚の雨宮悠一郎は、強盗たちによって妻と長女を殺害される。それから16年後。とある工場の消火システムの故障により、一人の男性が死亡する。その娘と同級生だった遥と悠記は、これが連続怪死事件のひとつであることに気が付いた。興味を持った二人は、事件を追い始める……。『天誅殺』というタイトルが示している、作品の根幹となる復讐システムが、あまりにもマンガ的すぎ。逆に言えば、マンガではありきたりな設定である。
 以上の2作とも通過こそしなかったものの、ある一定のレベルには達している長篇を2本も書いて応募したことは評価に値する。
 『アグリの星』の森山五丈は、常連組。富山県富山市で、若年収納者支援事業が開始される。雑誌編集者だが実家が農家である加々美アキラなど、7人が研修生として参加することとなった。しかし事業に反対する人間もおり、すんなりとは進まない。そして遂には死者が出てしまう……という農業ミステリー。
 当然とはいえ、農業の話が延々と続く。これが長すぎて、読者に読み進めたいと思わせる「牽引力」がいかんせん弱い。『このミステリーがすごい!』大賞なのだから、ミステリーの部分で読者を引っ張らないと。何のためにいるのか不明なキャラもいるので整理した上で、読ませどころをはっきりとさせるべき。
 そして『エンジェルクラフト』(諌山裕)。中年男・聖司は、新宿の公園でいきなり出現した裸の少女と出会う。自分は天使だという少女は「杏樹」と名乗った。ラブホテルに泊まった二人は、天使の闘いをするためにセックスをする。そして、更に二つの物語が並行して展開される……。エロシーンはうまいけれども、最終的な闘いがどうなるのか――と期待したらやっぱりセックスするだけ。男性の願望充足の物語としてはいいかもしれないが、女性読者には受けないでしょう(かなり引くと思います)。最初からポルノ小説を目指して書いた方がいいかもしれないですね。『このミス』大賞に応募するなら、エロを散りばめるにしてもそれだけでは受賞はできません。
 最後に。他の賞で途中まで選考に通ったことのある作品を、書き直して応募した方がいた。それを申告したのはフェアだし、ある程度評価された作品が愛しいのもよく分かります。ですが、落ちたからには一旦それを諦めて、新たな作品を書くことにエネルギーを傾注した方がよいでしょう。デビューすれば、今度は次から次へと書き続けねばなりません。使える過去作品ならば、その時に引っ張り出せばいいことです。常に新しい物語を生み出すことを目指して下さい。その方が、絶対に早道です。

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