第9回『このミス』大賞 1次通過作品 17

シェリー酒造りのミスから明らかになっていく
卑劣な陰謀と、仮面舞踏会の夜に起きた死。
18世紀という時代と、スペインを描ききった歴史ミステリー

『悲しみのマリアは暁を待つ』 水月彩人

 舞台となるのは、18世紀(1700年代初頭)スペインのコリア・デル・リオ。商人イサーク・ハポンは、慶長遣欧使節団の仙台藩士の血を引いていた。フェリペ・ロルダンは同家に下宿する医師の卵で、イサークの娘ヒメナに好意を抱いていた。
 イサークは、これからシェリー酒造りを行う酒蔵に、酒樽の買い入れを仲介した。売主は、旧知の仲であるアイーダ・デ・エスティージャ伯爵夫人。ところがその酒樽には欠陥があり、松脂の匂いが移ってしまって大量の酒が駄目になる。
 イサークはアイーダに賠償を求めようとするが、アイーダの責任は被害額の一割程度に止まると法学者から指摘を受ける。イサークは、被害の残額を樽の製造者から直接回収しなければならなくなった。
 そこでイサークは、樽の製造者カルロス・ミゲルと交渉するため、カディスへと赴いた。そこで彼を待っていたのは、意外な状況だった。そして、卑劣な陰謀の存在を知る。
その後、戻ったイサークは、仮面舞踏会の夜に死亡する。疑惑を抱いたフェリペとヒメナは、隠された事実を知るべく、調査を開始する……。
 18世紀という時代、そしてスペインという舞台を、見事に描ききった歴史ミステリである。投稿原稿だと、背景や登場する事物を説明する際に延々と解説が続く「うんちくモード」に入ってしまい、読み手をげんなりさせることがしばしばあるのだが、本作では物語の推移と説明が一体化しており、読者を飽きさせない。
 ルビによってふんだんに散りばめられたスペイン語も、読み手を舞台となる世界へとすんなり誘ってくれる。
 肝心のストーリー展開の部分での書き込み不足が感じられたり、心の動きを言葉で説明し過ぎなどの欠点はあるものの、これだけ異国描写や歴史的背景の書き込みがされていることを高く評価して、2次選考へと通過させます。

(北原尚彦)

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