第9回『このミス』大賞 1次通過作品 16

世の中の悪人を独断的に処罰していく「森のくまさん」。
メルヘンチックな表題の裏にある
おぞましい世界を堪能あれ

『森のくまさん―The Bear―』 堀内公太郎

 タイトルに十分不安を覚えつつページをめくり始めた作品である。ところが、だ。しょっぱなからくまさんの世界に引きずり込まれてしまった。というのも、文章の力が圧倒的なのである。特に、第1章のセリフと地の文の掛け合いが生み出すリズムが抜群に素晴らしい。この賞の1次選考を担当するのも今回で9回目で、巧みに滑り出した作品にはいくつも遭遇しているが、タイトルを含めここまでガツンときたイントロは初めてだったと言ってよかろう(次点は、ハセノバクシンオー(当時)『ビッグボーナス』ね)。
小説全体としては、正直に告白するとさほど新鮮味があるわけではない。〈森のくまさん〉なる存在が、世の中の悪人を独断的に処罰していくという話なのである。それをネットの匿名掲示板との共存関係の中で進めていくというのも、現代ミステリとしては、やはり目新しくはない。
 だが、その語り口が優れている。〈森のくまさん〉の“内面描写”(ある種の葛藤といってもよかろう)で読者を引っ張るし、〈森のくまさん〉に裁かれる面々の悪事もたっぷり読ませる。悪事のなかでも、特に女子高でのイジメは嫌悪感をたっぷりと催させてくれること間違いなし。これらの各エピソードの読み応えは十分だし、リアリティを感じさせる説得力もまた十分だ。そこに大学生男女の恋物語も絡んでくるし、ある種の幼稚さが生み出す残酷さも練り込まれてくる。そしてそれらの要素がクライマックスでがっちりと組み合わさり、爆発する。爆発して余韻を残す。その余韻も含め、魅力たっぷりのイントロから結末まで一気に読ませるパワーを備えた作品だ。
 脇役たちに個性が乏しいこと、意外性にもう一つ欠けることなどいくつかの欠陥はあるが、総論としては、それを意識させない語り口を高く評価したい。さらに加点要素として、最後の1ページに至って森のくまさんというタイトルに不気味さが加わるという演出の巧みさもある。
 竜頭蛇尾に終わらなかった1作であり、1次通過も当然といえよう。

(村上貴史)

通過作品一覧に戻る
作品を立ち読み