第9回『このミス』大賞 1次通過作品 15

一隻の貨物船の中で起こる殺人事件。危機また危機に
襲われる船は、やがてレベル5のハリケーンへと向かう。
疾走感みなぎる海洋小説

『漂流船』 阪東義剛

 乗員全員が食中毒で離船した貨物船プロスペロー号を、ジャマイカからフロリダまで航行してきてほしいとの依頼を受諾した元船長経験者の古澤は、部下たちとともにヘリコプターからロープで貨物船に降り立った。だが、その船は無人ではなかった。銃を持った男があらわれ、いきなり古澤の部下の一人を撃ち殺したのだ。いったいこの船で何が起きているのか。古澤たち一行を船に連れてきたヘリはすでに飛び去った。古澤たちには、この船を出て行くすべがないのだ……。
 この海洋冒険小説、物語の最初と最後を除き、舞台がほぼ一隻の貨物船に限定されている点がまず特徴である。むやみに大風呂敷を広げるのではなく、フォーカスを明確にしたこの作りに好感が持てる。舞台を一箇所に限定するということは、多視点で物語を並列に進め、それによって読者の興味を惹きつけ続けるといった技法が使えなくなるわけで、作者にとってはリスキーな選択ともいえる。だが、『漂流船』の著者はそのリスクに挑み、そして打ち勝ったのだ。
 プロスペロー号の船上で(時に船の近傍の海上で)、様々な危機が次から次へと古澤を襲う。しかも、無人のはずの船になぜ人がいたのか、この船では何が行われていたのかといった謎も、古澤を待ち受けている。危機の先にさらなる危機があり、謎の奥にさらなる謎があるという案配で、この『漂流船』は、とにかくぐいぐいとページをめくらせるのだ。文章に破綻がない点も、読書をさらに加速させてくれる。実に愉しく読めるのである。
 あえて難点を探すとすれば、そのスピード感か。スピード感と引き替えに、こってりとした濃密な描写を手放してしまっている。危機を乗り越えるまでの苦難や工夫、レベル5のハリケーンとの闘い、主役と仲間との交流などを、より描き込んだ長大濃厚バージョンも読んでみたかったという気にもさせられるのだ。とはいえ、このバージョンが十二分に愉しめたのも確かであり、2次選考に残すことに躊躇はない。

(村上貴史)

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