第9回『このミス』大賞 1次通過作品 12

英国貴族の邸宅を移築した「ホークウッド・ホテル」には
18世紀の住人たちのゴーストが現れるらしい……。
歴史ミステリーの魅力とドラマ性に満ちた傑作!

『ホークウッドの亡霊』 高山深雪

 ゴーストの肖像画を描いて欲しい――そう依頼された画家の観月洋は、軽井沢のホークウッド・ホテルを訪れた。英国貴族の邸宅を移築したホテルには、18世紀の住人たちのゴーストが現れるというのだ。「彼ら」の死にまつわる謎に直面し、正体不明のゴーストの存在を知った観月は、オーナーや宿泊客とともに「彼ら」の秘密を探っていく。一方、娘の希歩を連れてホテルにやって来たパティシエの樫村瑞枝もまた、ゴーストに遭遇したことで「彼ら」の真実に迫ることになる。
 300年前の事件を追う推理パート、往年のエピソードを描く歴史パート、母娘による調査行パート――本作ではこの3つが交互に綴られている。いずれも端正な筆致で書かれており、十分に「読ませる」パワーを持っているが、この構成はクライマックスで(さらに!)効果を発揮する。思いがけない真相が明かされた後、読者はようやく物語の本当の姿を発見するのだ。この趣向はスマートなミステリセンスを感じさせるが、より注目すべき点として、それが強い哀愁を生んでいることを挙げておきたい。著者は印象的なシーンを用意することで、切なさを爽やかな幕切れへと昇華させている。トリックのためのトリックではなく、そこにはドラマのための必然性がある。この発想とそれを結実させた筆力は高く評価されるべきだろう。
 幽霊譚の滋味、歴史ミステリの魅力、トリッキーなストーリーテリング、切なさと読後感の良さを含むドラマ性などを詰め込み、コンパクトに折り畳んでみせた傑作。重層的なエンタテインメントとはこういうものだ。もちろん1次選考は軽々とクリアである。

(福井健太)

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