第9回『このミス』大賞 1次通過作品 11

父親が巻き込まれた不正献金疑惑。
大学生の息子が、父親の汚名を晴らすため行動を起こす。
起伏に富んだ物語と、連なるエピソードは迫力充分

『盾と爪』 白水隆

 個人的な好みでいえば、小説はなめらかな外観を持っているほうがいい。きちんと内容物が収まりきらず表面に凹凸が生じていたり、十分に吟味をされないために素材の出来にばらつきがあったりすれば、読者に無用の不快感を与えるノイズとなりかねないからだ。舞城王太郎のようにそうしたノイズを使いこなせる作家ではない限り、できるかぎり努力して自作を精錬したほうがいい。推敲作業はそのためにある。
 白水隆『盾と爪』で感じたのは、その推敲の不足である。読みながら、あちこちで違和感を覚えた。主人公・久保田武は大学生であるはずなのに、まるで練達のジャーナリストのように事件を追い、危機的状況にも落ち着いて対処する。父親が大規模な不正献金疑惑に巻き込まれたため、名誉回復を図ろうとして彼は行動を起こすのだが、いくらなんでも動きが良すぎるだろう。また、武が対峙することになる事態の内容も、漫画的な部分と現実に立脚した部分が渾然としており、素材がよく混ざり合っていない。明らかに詰め込みすぎか、もしくは個々の素材の精練が足りないのである。そのため読者に歯痒い思いをさせる結果になっている。せっかくの物語なのに、もったいない。
 こうしてお断りした通り欠点は多い作品である。それでも今回2次に挙げようと思ったのは、物語が起伏に富んだものであり、読者を飽きさせないようにタイミングよくエピソードを連ねるなど、娯楽小説を書こうという気構えが充溢した作品であったからだ。主人公の父親を襲撃し、官憲に追われる立場となる井川というキャラクターもいい。不屈の精神の持ち主であり、他者を平気で犠牲者にして事態を切り抜けようとする。正直言って、主人公よりも彼のほうが私の好みであった。悪役がきちんと書けるということは、冒険小説の作者としての資質があるということである。荒削りではあるが、才能のある書き手だ。のびしろの多さを見込んで、あえて2次選考へと残したいと思う。

(杉江松恋)

通過作品一覧に戻る
作品を立ち読み