第9回『このミス』大賞 1次通過作品 09

児童相談所所長、小児科医、母、祖母、妹、義父……。
関係者の語りにより、浮き彫りになっていく児童虐待の真相は?
ひとりの聡明な少女・亜紀がすべての鍵を握る

『羽根と鎖』 佐藤菁南

 10年前のこと。長崎県南児童相談所の所長・隈部は、友人の小児科医・相良からの連絡を受けた。交通事故で運び込まれた児童・長峰亜紀に、虐待を受けている形跡があるというのだ。剥離骨折が自然治癒した跡。身体のあちこちにある痣や擦過傷。自動車との接触によるものにしては、不自然なものばかりだった。隈部は亜紀と面接した結果、一時保護をすることに決定した。
 亜紀の保護者は、母親の君枝。母子家庭だった。虐待を認めようとしなかった君枝は、隈部の説得によってようやく亜紀の一時保護を承諾する。亜紀には小さな妹がいることも判明したが、その妹は東京の祖母に預けられているというので、保護の必要はなかった。
 隈部は、亜紀を連れて自動車で児童相談所へと戻る。ところが、彼らを追跡してくる一台の自動車があった。途中、ひとりの男が降りてくると、隈部に暴行を加えて亜紀を拉致し去ってしまう。男は「亜紀の父親だ」と名乗った。
 その男は、杉本という人物だと判明。隈部はあらためて亜紀を保護しようとするが……。
 亜紀は果たして無事に救われるのか、何か裏にまだあるらしいが、それは何なのか――など、読者の興味を惹きつけて離さない。家庭内での虐待というテーマも、現代的だ。
 関係者が順番に語っていく形式で、語り手の入れ替わる一人称で書かれている。それぞれの語り手もごく自然にキャラが作り出されているし、読み易いし、この手法は成功していると言えるだろう。
 語り手が変わったことに気づかずしばらく読み進んでしまったことがあったので、バトンタッチの際にはそれをもっとはっきり分かるようにする必要があるかもしれない。とはいえ、これは何か明確な様式を考えればいいだけのこと。全体としての作品レベルは、最初のハードルを越えるに十分だ。

(北原尚彦)

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