第9回『このミス』大賞 1次通過作品 07

ルーブル美術館で起こった不可能犯罪、
高校で起きた部費消失と、都内で発生した殺人事件……。
これらの事件は、フェルメールの絵がすべてをつないでいた!

『青の錬金術』 小林涼介

 かっちり作られた小説である。
はしゃいだところ、浮ついたところがなく、また、あからさまに素人めいた描写もない。物語はスムーズに流れていき、中心人物の心理もきちんと描かれている。『青の錬金術』とは、そんな小説なのだ。
 この作品、まずは冒頭で提示されるルーブル美術館からの絵の消失事件が読者の興味を引きつけるだろう。不可能犯罪を思わせるこの事件の追求が始まるかと思いきや、物語は一転して日本の高校へ。美術部の部室で起きた部費消失事件へと焦点が移動する。こちらは不可能犯罪興味というより、高校内部での陰湿なイジメへの導入部として描かれている。そして、都内で発生した強盗殺人事件へと物語は転がっていく。
 これらをつなぐのが、フェルメールだ。濃淡に違いはあれ、かの画家の作品がこれらの事件の共通項として物語の底に存在しているのである。
 そのフェルメールに関するうんちくや、真作贋作を巡る考察が、必然的に物語には多く顔を出すのだが、その記述が退屈を誘わない。主要登場人物の父からの手紙であったり、あるいはその他の登場人物の発言であったりと、様々に工夫を凝らして読者に情報が届けられるのだ。達者な書きっぷりである。さらに、フェルメールに関する史実の上に虚構を塗り重ねていく手腕もまた、巧みだ。少なくとも美術の素人である当方にとっては、虚実の境目を感じさせない程度に巧みであり、そして歴史ミステリを読む愉しみを十分満喫できる程度に巧みである。
 そればかりではない。その虚実取り混ぜたフェルメールの物語が、登場人物それぞれの人生と絡み合い、その結果として様々な事件が発生したという構図になっている。ここが、ミステリとして何より素晴らしい。フェルメールが多くの登場人物に絡み付き過ぎといえなくもないが、この結末を導くためであれば、ギリギリ許容範囲だろう。
 これまでの『このミステリーがすごい!』大賞受賞作とはだいぶ手触りの異なる作品だが、上質なミステリである。迷うことなく2次に推す次第だ。

(村上貴史)

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