第9回『このミス』大賞 1次通過作品 06

有機化学を専攻する大学院生の初恋を叶えるため、
突如現れた、謎の女性・カロン。
ふたりが引き起こす、ドタバタ・ラブ・ストーリー

『有機をもって恋をせよ』 喜多喜久

 藤村桂一郎は、有機化学を専攻する大学院生。たちまちにして化学物質の合成ルートを見つけてしまうという稀有な能力の持ち主である。
ところが研究室の新人秘書・真下美綾に一目惚れすると同時に、能力を失ってしまう。女性に無縁な生活を送ってきた桂一郎は、どうしていいか分からずに悩むばかり。そんな彼の前に、カロンと名乗る黒衣の女性が現われた。彼女は人間ではなかった。それを証明するように、不思議な力をふるってみせた。そして、失われた桂一郎の能力を取り戻してあげる、と言うのだった。
 桂一郎は知らなかった。桂一郎の能力が復活するよう、カロンに依頼した人物がいたことを。
 桂一郎が真下美綾と付き合えるようになれば能力は戻るだろう。しかしカロンは不思議な力を持ってはいるが、人の意思を捻じ曲げて好きにさせたりすることはできないので、最終的に は桂一郎が実力で真下美綾を振り向かせなくてはならないのだ。
 桂一郎は、カロンに強制されて真下美綾に告白する。結果は見事な玉砕だったが、カロンの力で真下美綾からその記憶は消し去られた。
 研究室の後輩の女性のはからいで、真下美綾を誘っての合コンがセッティングされる。ところが宴席で、美綾は桂一郎の友人・東間に気がある様子を見せる。
 その後も、ライバルが登場したり、別な女性と一緒にいるところを美綾に目撃されたりと、危難が相次ぐ。果たして、桂一郎は能力を取り戻すことはできるのか……。
 ストーリーを紹介すると「願いを叶えてくれる不思議な来訪者」物、もしくは恋愛ドタバタ物であるかのように見えるが、実質的には「桂一郎の能力を取り戻すようカロンに依頼をしたのは誰か」という要素で読者を引っ張っていく、れっきとしたミステリである。紆余曲折の末の結末も、悪くない。総じて、エンターテイメントとしての完成度は充分である。

(北原尚彦)

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