第9回『このミス』大賞 1次通過作品 05

身に覚えのない6300万円の振込は、
神の恵みか悪魔の誘惑か。
金に惹かれた小悪党が乱舞するオフビートな犯罪小説

『アクセン・ト・』 加藤笑田

 ある日突然、自分の口座に2000万円ものお金が振り込まれていたらあなたならどうしますか? しかも見たことも聞いたこともない人物から。さらに翌日、同じような入金が2件あったとしたら……喜ぶどころか背筋が寒くなるのでは。この作品は、そんな“不幸な幸運”に見舞われた冴えない若者が狂言回しを務めるオフビートな犯罪小説です。海外ミステリでは割とスタンダードなナンバーですが、日本ではちょっと珍しいタイプの作品ですね。
 物語は愛知県の海沿いにある田舎町で幕を開けます。ほとんど仕事の依頼がない便利屋――社長一人従業員一人という零細企業――に勤める須古星礼一。上司である女社長が仕事を探しに東京に行ったきり早4カ月が経ち、その間給料の振り込みがストップしてにっちもさっちもいかなくなった彼が、なけなしの預金2000円ちょいを下ろそうと信用金庫に赴いたところ、冒頭の“贈り物”に遭遇。小心者の悲しさで滞納していた家賃分を引き出したものの不安にかられ、振込元名が法人のものを手掛かりに何が起きたのかを調べようと上京します。よもやそれが闇の世界の人々の背中を押すことになろうとは夢にも思わずに……。
 物語前半は、小悪党ども――金貸し、口座屋、殺し屋、詐欺師、情報通、そして横領犯――がそれぞれの欲望に基づき行動する様を、時折独特の諧謔を割り込ませつつ、乾いた単文を連ねてテンポ良く描いていきます。こうして頻繁に視点を切り替え、不穏な静けさを保ったまま読者の興味を駆り立てた上で、後半一転してアクションを盛りこみ次々と伏せられていたカードをめくり、それまでばらばらにみえていた犯罪者たちの繋がりを明かし、陰謀劇を収斂させていく。最後にニヤリと笑うのは誰か? 小悪党どもの造形もなかなかよろしく、まずは1次通過レベルを余裕でクリアした犯罪小説です。

(膳所善造)

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