第9回『このミス』大賞 1次通過作品 01

隣国の崩壊によって誕生した民間軍事会社で、
捜査一課から左遷された元刑事がテロリストと闘う。
死体の奪還をミッションにしたSFアクション

『デッドボディ・ワーキング』 叡惟匡見

 北朝鮮の崩壊によって治安が悪化し、民間企業が「法の守護者」として活動する近未来の日本。上層部のミスの責任を押しつけられ、捜査一課から左遷された小針冴樹は、民間軍事会社グレイブ・ストーンの一員としてテロリストとの闘いを繰り広げる――というアクションSFである。
 実在の国家や組織が言及されるものの、固有名詞はムード作りの小道具に過ぎず、現実社会との繋がりは薄い。テロリストの殲滅ではなく、モノと化した(はずの)死体の奪還ミッションに焦点を当て、そこから物語を編むことで独自性を出しているのは好印象。父親やかつての親友にまつわるエピソードを示し、冴樹の個人的なドラマを推進力として、仲間たちに溶け込むまでの過程をスピーディに綴った構成も――すこぶる類型的ではあるが――エンタテインメントとしては正しい。つまりは安心感のある内容というわけだ。
 ただし弱点も少なくない。兵器の名称は散見されるにせよ、ミリタリー面の濃度にはいささか不満が残る。描写と会話が概して平板なため、各キャラクターの魅力をアピールしきれていないのも難。背景となる世界(軍事設定を含む)の情報量を増やし、濃密なムードを醸しつつ、アクの強いメンバーたちを跋扈させる――というのは贅沢な要求だとしても、改善すべきポイントが複数あるのは確かだろう。適切な肉付けを施すことが出来れば、かなりの良作に化ける素材かもしれない。2007年に『エクス・マキナ・ファミリア』で第9回日本SF新人賞の最終候補となった著者だけに、その潜在能力には大いに期待したいところだ。

(福井健太)

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