第6回『このミス』大賞 次回作に期待 北原尚彦氏コメント
『マネーロード』 真二郎
『久遠の岩』 松田工
北原尚彦コメント
今年わたしが担当した応募作には、作者の「職業と略歴」がきちんと書かれていないものが散見された。規定の書かなければいけない条項に入っているのだから、その時点ではねられても文句は言えない。テストの解答用紙に名前を書かずに0点を取るようなものだ。隠しておきたいことがあるのかもしれないが、選考委員や編集者がそれを漏らすことはない。真面目に応募するつもりなら、(職業と略歴だけに限らず)規定は厳守しなければならない。
あと、いくら『このミステリーがすごい!』大賞が間口の広い小説賞であるとはいえ、あくまでエンターテインメント「小説」の賞である。「自ら体験した心霊現象の実録」を送り付けるのは勘弁して頂きたい。
さて、今回惜しくも「次回作に期待」となったのは、まず『マネーロード』(真二郎)である。
四年間ホテルにひきこもっている男、ヒィ。彼がひきこもっているのは、他者と向き合うと、その人間の金に対する思いが幻覚となって見えてしまうからだ。ま た彼は、「金の声」を聞く力を持ち、他人の財布に入っている金額を言い当てることから、株式市場の値動きを予見することまで可能だった。
彼は、一枚の旧紙幣の千円札がどのように人の手を渡って来たかを調べるため、ホテヘル嬢のカズキとともに四年ぶりに外へ出る。
かつて札を手にした者に会うたびに、ヒィは相手の姿に幻覚を見る……。
——という設定や展開は面白いし、文章も手馴れている(作者は脚本家として活躍しておられる)。しかし設定が超自然的であることとは別に、キャラクター描写やストーリー展開にややリアリティが欠けるよう感じられた。それらが深みを増せば、読者をもっと物語に引き込むことができると思う。
それから時代小説『久遠の岩』(松田工)。読みやすくはあったけれども、『このミステリーがすごい!』大賞に応募するからには、ただの時代小説ではいけないだろう。「闇の三種の神器」にまつわる物語で、うちふたつにもうひとつの在り処が示されているところなど、暗号解読の面白みを期待したらあっさりしたもので、肩透かしをくらってしまった。また、手がかりと隠し場所が同じ土地にあったのでは、隠す意味が半減してしまうと思う。ミステリ読者の興味を引く「物語のフレームの構築」に努めて頂きたい。















