第6回『このミス』大賞 1次通過作品
『彷徨える犬たち』 中村啓(なかむら・ひらく)
既にミステリの世界で有名になっている土地を背景に使うのは、はっきり言って不利である。この『彷徨える犬たち』の舞台となるのは、新宿歌舞伎町。大沢在昌の『新宿鮫』シリーズや馳星周の『不夜城』などで既に繰り返し使われ、てあかの付いている場所だ。
しかしこの作品は、読んでみればこの新宿歌舞伎町でなければならない物語であると納得がいく。
新宿歌舞伎町のラブホテルで、元暴力団員が射殺される。新宿署の廣司悠人は、一風変わった警官である綾瀬弘美とコンビを組んで、この事件の捜査をすることになる。被害者の携帯履歴から、事件当夜に桜田みらいというAV女優と会うはずだったことが判明する。二人は調査を行うが、桜田みらいの本名のみならず、その過去について知る者はひとりもいなかった。一方、綾瀬弘美は、共同捜査している警視庁よりも先に真相を明かさねばならない理由があった。綾瀬は、個人的に被害者と付き合いがあったのである。
やがて、被害者は半年前に発生した中国人グループの抗争事件と関係があったことが判明する……。
主人公の廣司悠人はもちろん、相方の綾瀬弘美のキャラクター造型が目を引く。特に綾瀬は、やや現実離れしたところがあるが(そこをどう評価するかが作品の評価に密接につながるだろう)、そのキャラもストーリー展開と密接に関連しているのだから、読み進むうちにそれすら作品そのものの魅力と感じられてくる。
暴力団抗争、中国人の密入国と、現実の新宿歌舞伎町裏社会を、骨太の筆致で描き出し、読者をぐいぐいとひきつける。『このミステリーがすごい!』大賞の傾向と対策をきちんと踏まえた作品である。
(北原尚彦)















