第6回『このミス』大賞 次回作に期待 膳所善造氏コメント
『ブギーボーダーの憂鬱』 真島英資
『インポッシブル・マスターピース』 澤田 武
『DEAR MY FRIEND』 植 大介
『ザ・ブレイン・オブ・アインシュタイン』 あいだよるの
『オフサイド・トラップ』 高森一
『胡乱なgood people』 葛城与織
膳所善造コメント
回数を重ねるにつれ、応募原稿の底上げが著しい『このミステリーがすごい!』大賞では、1次通過こそが最大の難関なのではないか、というのが選考委員としての実感です。それだけに毎回悩ましい思いをしています。以下にあげるのは、もう少しのところでハードルを越えられなかった作品ですが、それぞれ独自の味があり愉しませて頂きました。
『ブギーボーダーの憂鬱』は、カジノを利用して汚れた金の洗濯をする主人公の小悪党振りが、なかなかいい味を出しています。前半、ハワイの秘密クラブに潜入するシーンは、説明過多でもなく、ギャンブルに詳しくない者を置いてきぼりにすることもなく、読んでいてドキドキさせられたのですが、後半、アメリカ政府の陰謀が前面に出てくるあたりから、急速にトーンダウンしてしまいました。ありがちな謀略モノ的要素を排して、前半のノリで通した方がよかったと思います。過剰な脚注が、さほど効果を上げていない点もマイナス要因となりました。
『インポッシブル・マスターピース』は、奇想と言う点では応募作中、一二を争う作品でした。必修単位の履修に卒業が掛かっている三人の学生が、奇策を練って何とかマクロ経済学の試験をクリアしようと試みる。実に卑俗でスケールの小さい犯罪小説──誉め言葉です、念のため──です。谷俊彦の傑作「東京都大学の人びと」を思い出してしまいましたよ。さらに後半、因果が巡って、不仲な教授たちの関係修繕をせざるを得なくなってしまう展開も、ひねりが利いていて面白い。後味もよく、ニヤニヤしながら読了しました。欠点は一つ。あまりにも文章が稚拙です。アイディアが抜群なだけに何とも惜しいのですが、流石にこのレベルの文章では1次は通せません。文章力は、執筆を重ねることである程度のレベルまでは、確実に巧くなります。次回に期待しています。
『DEAR MY FRIEND』は、女子大生コンビの関西弁による掛け合い漫才的なやりとりが実に面白く、読みながら何度も笑わせて貰いました。ただしミステリーとして見た場合、大ネタ一発勝負にかけるあまり、本来中心となるはずの密室殺人のトリックがあまりにとほほなため見送らざるを得ませんでした。
『ザ・ブレイン・オブ・アインシュタイン』。アインシュタインの脳が、死後盗難に遭ったという事実を背景に、史上初の完璧な人工頭脳の開発を巡って起きた殺人事件の謎を、脳科学者のヒロインが解き明かす近未来ミステリーです。全体的に手堅くまとまり、蘊蓄(うんちく)によるくすぐりも効いていて、そこそこ楽しめる作品でした。ただし、あまりにも世界が狭すぎます。ストーリー展開のために都合良く設定された人物からは、ヒロインの目に映る以外の世界が感じられず、書き割りのような印象をうけました。もう少し背景に目配りをすれば、ぐっとよくなると思います。
『オフサイド・トラップ』は、大手スーパーを退職したコンビニの店長が、かつての職場の同僚でもあり親友でもある男の失踪の謎を追う話です。文章力、人物造型、プロットと特に目立った欠点はないのですが、その反面、これといった特長もない。手堅くまとまってはいますが、新人賞に求められる、既存作品には見られない新鮮さとパワーは、残念ながら感じられませんでした。
『胡乱なgood people』は、シチュエーションコメディーとしては、なかなかによいできだと思います。閑古鳥が鳴く喫茶店のマスターに引き寄せられた老若男女数人が、マスターの助言を得て、それぞれが抱えたちょっとしたトラブルを解決するロンド形式の日常の謎系ミステリー。お互い無関係に思われたトラブルや人間関係が、実は密接に関係しており、それらを収斂させていく手際は面白い。ただ、その創り込みがやややり過ぎている為、世界が百人の村に思えてしまいます。赤ん坊をコインロッカーで育てるという肝心の部分が、いくら何でも無理筋なのも減点要因でした。もう少し人間関係を緩くしつつ、ご都合主義を排すれば、シャーロット・アームストロングの「毒薬の小瓶」のような、しゃれたシチュエーション・コメディー・タイプのミステリーを書けるようになるのではないかと期待しています。















