第6回『このミス』大賞 1次通過作品

『運命のカプリース』 水月秋杜(みなづき・あきと)

 絶望の未来に向けて、墜落していくような感覚がたまらない作品である。カメラマンの冴木真吾は、涼という美しい青年に出会い、ファインダー越しに彼を愛してしまう。そのことがきっかけで涼はモデルとしてスカウトされた。しかし、涼の持つ魅力は魔性のもので、彼を恋したカメラマンは真吾だけではなかったのである。やはり同業の中澤拓が彼に魅せられ、半ば監禁するようにして涼を独占してしまう。この行為が、真吾と涼の双方に誤解を生じさせ、二人は一時別の道を歩み始める。しかしそれは、両者を不可避の運命へと引き込む道筋だったのである。真吾と涼が再会したとき、二人の身の上に悲劇が起こる。

 なんだよボーイズ・ラブじゃん!とおっしゃいますか。そう、BLの部類に入る小説だろうと思う。このジャンルには詳しくないので軽はずみなことを書くことは避けるが、主人公たちを翻弄する運命の「いくらなんでも」な感じには正直驚かされてしまうことも多かった。たとえばそれまでカメラマンだった真吾が、モデルに転身してしまうくだり。いきなり「俺に炎の板を渡れというのかい?」(ファッションショーのステージを歩くことを、ある登場人物がそう喩えるのだ)と言われてもねえ。渡れと言われたら渡れるんですか、と聞き返したいところだ。ああいうのもきちんとした修業がいるはずなのに。しかし、それは問題ないのである。モデルになった真吾は、たちまち香港裏社会を牛耳るタンという富豪の囲い者にされてしまうからだ(夜な夜な地下室で鞭打たれるんですよ!)。

 ベタである。ベタで結構。真吾と涼、二人の美青年がおのれの美しさゆえに愛欲の世界にとりこまれ、落とされていくさまを鑑賞する作品だろうからだ。エロスの裏にあるタナトス、それを徹底的に描いた作品である。私はノンケなんだけど、覚悟のある書きっぷりが気に入りました。これを読んで、ぜひみなさんもムズムズしてみてください。

(杉江松恋)

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