第6回『このミス』大賞 1次通過作品

『魔女は甦る』 中山七里

 バラバラ殺人なんて「生やさしい表現」では言い表せないほど、細切れにされ、ぶちまけられた骨と肉。物語は、ミステリー史上ちょっと類を見ないくらい凄惨な殺人現場の描写で幕を開けます。遺留品から被害者は、二ヶ月前に突如閉鎖された、現場付近に建つ外資系製薬会社の研究員・桐生と判明。幼い頃に自然災害で家族全員を失った彼は、莫大な保険金を得たものの一切手をつけず、恋人の毬村を除いて人との交わりを絶ち、研究一筋の生活をしていまたした。物静かで礼儀正しいけれども、他者を寄せつけず掴みどころのない青年。そんな男が、なぜかくも残虐な殺され方をされなければならなかったのか。

 一方、現場近辺の住宅から生後間もない赤ん坊が行方不明になったとの通報が入ります。さらにそのあたりでは、しばらく前から飼い猫がいなくなる事件が頻発していたことが判明。事件を解く鍵は、死の数日前に桐生が吐いた「僕は魔女の末裔だ」、という言葉にあると直感した埼玉県警の槙畑ですが……。

 巧いです。黒い噂の絶えない謎の多国籍企業と攻撃本能を増幅させる新種の覚醒剤。頻発する若年層による凶悪犯罪と小動物の消失。そして嬰児誘拐。これだけのネタを盛り込みこみながら、大風呂敷を広げすぎて散漫になることも、辻褄合わせに終始するあまり萎縮することもありません。その理由は、シンプルかつ堅固なプロットにあります。物語の焦点を、被害者の人物像を明らかにすることによる事件解明という一点に絞りこんでいるために、主役の二人──槙原と毬村──の言動が最初から最後までぶれません。加えて、槙原のトラウマが、時にブレーキに時にアクセルとなり絶妙な緩急をつけ、終始緊張感とある種のダークネスを保ったまま、クライマックスへと力強く突き進むのです。そして物語の3/4過ぎで明らかになる真犯人。これには驚きました。なるほど、こうくるかと。無論単なる意外性を狙ったものではなく、必然としての帰結であり、それ故に残り1/4にわたる真犯人との壮絶な対決シーンが、真に迫って読む者を恐怖させるのです。いや本当に、手に汗握りました。

 尚、警察機構に関して、一箇所事実誤認がありますが、そんな瑕疵(かし)など押し流してしまうほどパワーに溢れたエンターテインメントでした。傑作と言っていいでしょう。

(膳所善造)

通過作品一覧に戻る