第6回『このミス』大賞 1次通過作品
『禁断のパンダ』 拓未紀司
柴山幸太は神戸でビストロを営む新進気鋭の料理人だ。彼は、妻の友人と木下信一との結婚披露宴で、信一の祖父である中島という老人と知り合いになる。その中島は人間離れした味覚を持つ料理評論家であった。披露宴での会話を通じて、幸太は中島に料理人としてのセンスを認められ、その結果、中島が幸太のビストロを訪問することとなる……。幸太が中島と知り合った翌日、神戸ポートタワーで一人の男性の刺殺体が発見された。警察が捜査を進めた結果、被害者は、木下信一の父が営む会社に勤務していたことが判明。信一の父親が失踪していることも確認された……。
幸太が料理人として成長していく姿に、ある殺人事件を絡めた一篇である。美食と殺人が絡むミステリといえば、読者はある定番的展開を予測されるかもしれないが、そこはそれ。本書はその定番的展開の存在をふまえて、それ以上のものとして巧みに構成されているのである。第1回大賞受賞の浅倉卓弥『四日間の奇蹟』が既存の作品の展開をふまえた上で、独自性を持って新たな次元に到達したと同様、この作品も料理ミステリにしっかりと独自性を加え、新鮮さを出しているのだ。そこがまず何より評価したいポイントである。
その巧みで独自性のある構成に加え、本書では料理と料理人の描写が実に冴えている。とにかく食べてみたいという気にさせるのだ。そして、その卓越した料理描写の数々が、動機、アリバイ、手掛かりといった様々な接点で事件と結びついているのが、ミステリとしてのこの作品の美しさといえよう。もちろんクライマックスのサスペンスも料理がらみである。
殺事件の解決そのものにはコクが足りないが、コース料理全体としては、代金以上の刺激と満足をもたらしてくれる味といえよう。
(村上貴史)















