第6回『このミス』大賞 1次通過作品
『KID A(キッド エー)』 黒木隆志
物語は二つの視点・立場から描かれていく。一つは、五人の男たちの物語である。中禅寺、山口、志水、福山、草野の五人は、互いを同志と呼ぶ血盟団を結成した。目的は、完全犯罪の遂行である。彼らは普通人の顔を保ちつつも、裏では世に棲むことの難しさを感じているひとびとであった。雅という正体不明の人物からの誘いが五人を結び合わせたのである。雅は、彼らの中に眠る特殊な力の存在を認め、選ばれた人間として使命を果たしてみないかという。自らが特殊な存在であることを証明するために、五人は個別に犯罪計画を練っていく。五人のラスコーリニコフの誕生だ。
一方の視点は、大学生の基山亜衣のものである。彼女は、解離性同一性障害の治療中であるイチという青年と出会った。死に対する病的なまでの恐怖心に悩まされている亜衣は、イチの底知れない魅力に引き込まれていく。しかし、この関係はイチの発症という事態のために突如中断された。
この二つの筋がどのように絡んでいくのか。それが中心にある興味だ。それぞれのパートに謎が仕掛けてある。たとえば同志たちを操る雅の正体。そして亜衣がイチと出会ったことの意味。こよりのように二つの筋は寄り添い、次第に真相を明らかにしていく。後半の、怒濤の展開には注目である。そして何より、この作者は文章が美しい。今回読んだ中では、いちばんの整い方であると感じました。整ってはいるのだが、その中に荒々しさを秘めている。同志たちを描くパートでは、彼らの負性の感情が生々しく伝わってくるのを感じたし、噴出するアドレナリンの匂いまで嗅ぎ取れるような気がした。がさつく心はがさついて描き、冷ややかな感情は冷ややかなものとして切り取る。そうした的確な描写力を備えた書き手であると思うのです。物語の閉じ方が不完全なのではないか、といった疑問は多々あれど、それを許してしまう飛びぬけた破壊力がある。傑作でしょう。
(杉江松恋)















