第6回『このミス』大賞 1次通過作品

『明治二十四年のオウガア』 桂 修司

 平成十八年と明治二十四年という二つの時代の事件が交互に語られ、クライマックスを迎えるちょっと毛色の変わった伝奇ホラーです。

 わずか二ヶ月間の間に、相次いで二名の受刑者が自殺した岡山県の刑務所。調査に訪れた人権派弁護士として名高い伊崎晋介は、保護房の構造が精神に変調を来させるのではと考え、自ら独房を調査します。ところが入室数分後に失神。その間に、官服を来た男に、「タイゾウ」と呼ばれ、サーベールで切りつけられる幻覚を見た彼は、意識が戻ったものの右目に異常な影が映るようになってしまいます。いったいこの”影”は何なのか。

 一方、明治時代の東京。無期懲役の刑に服している自由民権運動の志士・河内泰造は、他の国事犯ともども網走に送られます。そこで待っていたのは、対露政策の要となる中央道路建設という難事業でした。

 現代の怪奇現象の原因が、過去の悪行にあったというのは、この手の作品としては常道ですが、その悪行の背景に、明治政府が実際に行った非人道的な国家政策——建設に従事させられた1,200人の囚人の中200人以上が死亡——をもってきている点が目新しい。因果応報の関係が微妙にズレて歪んでいる点も、かえって恨みの深さと恨む側の狂気を感じさせます。

 呪いの発動原理が今ひとつ明確にされていない為、なぜ死刑囚と主人公だけが奇禍に遭い、他の悪人は難を逃れているのかとか、現代パートの後半がやや駆け足で、伊崎の陥る狂気が今ひとつ読む者に迫ってこない、とかいった突っ込みどころはあるのを承知でこの作品を推すのは、明治パートに込められた作者の熱気によるところが大です。荒削りですが、作者の訴えたかったことが伝わってきた点に好感を持ちました。1次通過のレベルはクリアしていると思います。

(膳所善造)

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