第5回『このミス』大賞 次回作に期待 膳所善造氏コメント

『絶望農場』 堀川 柊
『クイーカ・デ・サウダージ』 志織 信

膳所善造コメント

『このミステリーがすごい!』大賞も早いもので今年で5回目。全体的に見て、毎年確実にレベルはあがってきていると思います。その結果、必然的に1次通過ラインも上がり、”そこそこ良くできた作品”、言い換えれば”大きなミスもないかわりに、これといった特徴のない作品”で1次選考を通過することは、ほとんど無理といっていい状態です。

是非、自分にしか出せない”ボイス”を聴かせてください。はやりのネタやジャンルに、安易に飛びつくのは勧められません。今回特に多かったのが、ファンタジー、夢ネタ、ゲームネタ、絵画ものでした。無論、これらが即駄目、といっている訳ではありません。奇抜な設定や突飛な物語は、むしろ大歓迎です。ただし挑む以上は、腰を据えて取り組んで欲しいのです。求めているのは”小説”であって、コンピューター・ゲームやアニメ、2時間サスペンスのシナリオではありません。イラストや設定資料といった”アイテム”に頼ることなく、文章のみで作品世界を作り上げるのだ、ということを常に意識して執筆してください。

さて、苦言ばかり呈してしまいましたが、こうした最低限の条件をクリアしながら、あと一歩及ばなかったのが次の2作品です。

絶望農場』——日本、アメリカ、香港を舞台にした狂牛病を巡るサスペンス。主人公が台風の取材をする冒頭は、つかみとしては抜群で、これは期待できそうだと思ったのですが、残念ながら後のストーリー展開に繋がってきません。本筋に入ってからの狂牛病絡みのネタを追う展開が平板なので、よけいに落差が目立ってしまいます。人物造形ももう一段掘り下げて欲しいところです。

クイーカ・デ・サウダージ』——サンババンドのリーダーという主人公の設定に、目を引かれました。その主人公と謎に包まれた日系三世ミュージシャンの交情を横軸に、プルトニウム強奪事件を縦軸に展開するストーリーは、なかなかに読ませます。ただし、どこか既視感を拭えず、さらに残念ながらそのモヤモヤを払拭するだけの個性とパワーが感じられませんでした。既成作家の水準作としてはありかもしれませんが、新人賞の候補作としては、人物・展開・設定ともにやや平凡であり、候補作としては見送らざるを得ませんでした。

通過作品一覧に戻る