第5回『このミス』大賞 1次通過作品

『偽りの夏童話』 卯月未夢

 ミステリ好きの女子高生が事件解明に乗り出す——なんていう展開を聞くと、げんなりする方もいらっしゃるかも。だが待って欲しい。そんなに軽々に判断しないで下さいな。

 ネット上に開設された伝説的な女性作家のファンサイトで知り合った6人の若い男女が、ジョーカーという正体不明のサイト管理人に導かれるまま、架空のキャラクターを演じる二泊三日の推理劇に興じるうちに実際に事件が起きて——いやいや待て待て、そんなに簡単に見限らないで欲しい。この作品、なかなかイケるのである。

 まずはプロットが変化に富んでいて飽きさせない。サイトの掲示板でのやりとりを記した導入部でハンドル名によるキャラクターを読者に示し、その後、時間を遡って主人公がそのサイトにはまるまでの様子をスリリングに描き、さらに再度掲示板でのやりとりを交えながら、彼等が演じる推理劇へと導いていくといった具合に、作中の展開とその小説としての見せ方に、様々な工夫が凝らされているのだ。さらに、登場人物たちがジョーカーが提案した推理劇に参加する動機も説得力を持たせてある点や、登場人物たちがハンドル名と推理劇のキャラクターと本来の自分自身という三つの役割を兼ね備えている構造を十二分に活かしている点、さらには登場人物たちの行動とミステリとしての仕掛けが緊密に一体化している点など、評価すべきポイントが多々あるのだ。

 もちろん、欠点がないわけではない。プロットに比べてトリックが面白味に欠けるし、登場人物が若者ばかりでコクがない。だが、そんな不満を吹き飛ばすほどのリーダビリティをこの作品は備えているのである。

 ジョーカーが登場人物たちを散々振り回したように、著者は読者を振り回す。読者にとって、その振り回されている時間は、なんとも心地よい時間であるに違いない。

(村上貴史)

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