第5回『このミス』大賞 1次通過作品

『彗星群』 石井 淳

 サンフランシスコを舞台にしたクロニクル風の物語。日系人によって組織された「彗星群」というグループが成長し、一大勢力となるまでの流れが物語の主筋にあります。発端は日本国籍を持つ男性の殺人事件。17年の歳月を経て、その真相が暴かれるのですが、事件の関係者が彗星群のメンバーなのですね。第一章が事件を捜査した日系人刑事ジャック・イノウエの視点、第二章が彗星群のリーダーである梶山陽平の視点、第三章が17年後に事件のことを知り渡米して真相を調べようとする日本人フリーライターの視点というように、章ごとに視点人物を替えて事件を多面的に描こうとする試みがなされており、作者がこの小説を柄の大きいものにしようと目論んでいることが窺い知れます。もちろんそうした工夫は評価されるべきもので、舞台を海外の都市に持っていっている点も読者の興味を引きつける上でプラスに働くでしょう。その都市の描写も確かなものです。

 難があるとすれば、これだけ大きな構想で書かれているにしては、物語の柱が細すぎる点でしょう。殺人事件を巡る人間模様を暴くことが主筋であるため、脇筋に寄り道している余裕がないというのはわかります。しかし、第三章以降で書かれている調査の過程はいかにも脇目をふらずという感じで、窮屈な印象です。また犯人捜しとして読んだ場合、容疑者の数が不足しているため、必然的に導き出される結論が限定されてしまい、ミステリーとしての意外性には欠けます。その人物を犯人として指摘するための手がかり提示や、犯人であることの立証の手続きも不十分でしょう。物語は確かによく「走って」いるので、それに甘えて書き急いでいる観があります。ただし、その疾走感があるがために、終章の緊迫感も高められているのですが。物語のおもしろさとミステリーの興趣を天秤にかけ、前者を優先したものか。一般小説として書かれてもよかった作品なのかもしれません。

(杉江松恋)

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