第5回『このミス』大賞 1次通過作品

『大地鳴動し 霊山咆哮す』 平野暁弐

 端的に言ってしまえば、「富士山が噴火する話」である。

 最初、梗概を一読して「あまり期待できない」に分類してしまった。これまで、仕事の関係でシロウトが自費出版したSFやミステリを多く読んできたが、その中にUFOがどうのとか、未曾有の大災害が起こるだのとかいう小説が、頻出したのだ。

 しかし、腰を据えて本文を読んでみると、この作品がシロウトのトンデモ小説とは一線を画していることに、いや、そもそも同一視しては失礼だということに気が付いた。本作はきちんとした考証のなされた、立派な作品だったのである。

 201×年、神奈川県小田原市直下で大地震が発生。だがそれは未曾有の大災害の前触れに過ぎなかった。火山学者・白川洋人は、富士山の異変に気付き、大爆発を起こす可能性に気付いたのである。
一方、謎の投機筋の通貨攻撃がきっかけとなり、日本経済は大打撃を受ける。政府の金融政策担当・工藤千絵子は混乱の収拾に奮迅する。
富士山が大爆発を起こせば、物理的な災害のみならず、新たな通貨攻撃が日本を襲うことになる。果たして日本に未来はあるのか……。

 いわゆる、近未来を舞台にした「大災害パニック小説」であるが、わけもなく災害が発生するわけでもないし、ただひたすらにスペクタクルシーンが展開されるわけでもない。災害発生にはきちんと科学的な考証が行われ、それに引き続く出来事についても、理詰めでしっかりと物語が進展する。

 災害面だけでなく、経済面、世界情勢なども盛り込んであり、それがまた絵空事に終わっていないところが、作品の魅力のひとつだ。
実際にこのような災害が発生した場合にどのような二次災害が起きるか、どのような対策をとればいいか、啓蒙的な小説ですらある。宝島社ではなく、東京都が刊行すべき作品ではないか、とすら思った。
唯一気になったのは、果たしてこの作品が『このミステリーがすごい!』大賞向けの作品であろうか、という疑問が浮かんだこと。とはいえ、本大賞は面白いエンターテインメント作品であれば、どのような傾向の作品であろうと評価するというスタンス。というわけで、わたしはこの作品を推す次第である。

(北原尚彦)

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