第5回『このミス』大賞 2次選考結果 茶木則雄氏コメント

今年ほど悩んだ選考はない

 候補作を絞る段階で、今年ほど悩んだ選考はない。

 これは他の選考委員も同様だったと見え、2次選考会ではいつになく悩ましい議論が続いた。結果的に、「『このミス』大賞」史上最多の7作を残した訳だが、通過作品については最終選評で触れるとして、ここでは落選した6作について述べたい。

 が、その前に、一般論として記しておきたいことが二つある。

 一つは、上限枚数にこだわるのは往々にして欠点や力不足を露呈する結果となるという点だ。400〜500枚の許容枚数なら上限を目指すのも分かるが、800枚を必要不可欠とする物語は、そうそうない。刈り込んでこその「小説」である。ボリュームがあればあるほど、選考基準はシビアになることを応募者は肝に銘じてほしい。

 二つ目は、海外を舞台にした作品は不利になる場合が少なくない、という点だ。今回たまたま、日本以外を舞台にした作品が5本あったので、あえて指摘しておく。

 海外を舞台にしたものは、設定によほどその必要性を感じない限り、評価は難しい傾向にある。読む側にとって、海外を舞台にしているという時点で(ことに欧米を舞台にした場合)、ハードルがワンランクあがってしまう感は否めない。なぜなら比べる対象が国内ミステリーのみならず、海外ミステリーをも含めたなかで、その評価軸が定まるからだ。つまりは相応のハンディキャップを、のっけから背負うことになる。なぜ日本人以外が登場するのか、しなければならないのか、そういった必然性を物語の中で読者に納得させられない限り、所詮マイナスの要因にしかならないのだ。有体に言ってしまえば、海外を舞台にすることによってごまかしがきく——という「逃げ」に走っている作品が、少なくないも事実である。

 歴史的に見ても、海外を舞台にした作品がミステリー新人賞を取った例は数えるほどしかない。思い浮かぶのは、横溝正史賞を受賞した井上尚登『T.R.Y.』とサントリーミステリー大賞を受賞した垣根涼介『午前三時のルースター』くらいだろう。この両者には、言うまでもなく必然性が歴然とある。またその土地の雰囲気も時代性も、作中に十全と活写されていた。受賞は当然の帰結であろう。

 そうした意味で端から不利を蒙ったのが、ともにサンフランシスコを舞台の中心に選んだ『彗星群』『虚実の焔』である。前者は、枠組みだけ捉えれば必然性なきにしもあらずだが、テーマ自体は国内を舞台にして書けない小説ではない。ミステリー的興趣にも乏しく、骨太の海外ミステリーと比べてしまうと、あまりにも線が細く映ってしまう。手堅くまとまっており、殺人事件を巡る人間模様は読ませるだけに、国内を舞台にしていればそれなりに評価できた作品だろう。もっとも、文章とプロットをさらに磨いた上で、という注文付きだが。

 一方、後者の『虚実の焔』は、海外を舞台にした欠点がもろに出た作品だ。サンフランシスコからニューヨーク、バミューダからイタリアへと舞台はスピーディに動くものの、どの都市の描写も観光ガイドブック的でしかない。人物描写にも情景描写にも深みがさほど感じられないのだ。海外ミステリーの水準を評価軸に置くと、発想そのものに前例が多くあるだけに、極めて薄っぺらな印象しか残らないのである。テンポ良く読ませる力量は買うけど、これも国内が舞台なら、たとえ前例のある発想でもそれなりに意を凝らして面白くなったかも、と感じざるを得ない作品であった。

 が、もっとも罪深いのは『月光と猟犬のサーガ』だ。誤解なきよう書いておくが、この作品は前2作以上に読ませる。エキゾチックな雰囲気を醸し出す筆力と様々な活劇シーンを書き分ける力量などは、捨ておくには惜しいものがある。しかし、東シナ海に浮かぶ架空の島を舞台にする必然性が、この作品にはまったく感じられない。1次の選評にも書かれているように、これでは取材を怠って「逃げた」と言われても、致し方あるまい。

 エログロをふんだんに盛り込んだ鬼畜ナンセンス小説『暴威の王』は、個人的には好きなタイプの作品である。が、誰もが指摘するように、これを最終に残すには無理がある。好事家のみが喜ぶ、超カルト的作品だろう。

 『ネットを彷徨う亡霊を追え』の着想の鋭さと一部のアイデアは、なるほど高く評価できる。しかしそれ以外は、いささか凡庸との謗(そし)りを免れまい。キャラクタ造形にも見るべきものはあるが、それもこれも含めて、全体として現実感に乏しいのが最大の欠点だろう。

 悩ましいのは『レミングの塔』だった。この作品のページを繰らせるリーダビリティは、最終候補作と比べても何ら遜色がない。受賞の域には達していないが、例年だったら最終候補に残って然るべきレベルだと思う。同じパターンが繰り返されるプロットや犯行の動機の是非について、最後まで議論を繰り返したが、すでに7本も残したこともあり、今回は残念ながら見送りという結果になった。これに懲りず、捲土重来を期していただきたい。

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