第5回『このミス』大賞 2次選考結果 村上貴史氏コメント
消化不良の情報てんこ盛り小説より、短くても研ぎ澄まされた作品を!
まず、1次2次を通して全般的なコメントをから始めたい。
応募される方々には、是非とも自分の作品の魅力を最大限に発揮することを考えていただきたい。ご自身のアイディアの持つ魅力を、どのようにすれば最大限に発揮できるか。それを考えれば、魅力を最大化する手段として、応募する賞の枚数に合わせて水増しするなんていう道は選ばないだろう。ましてや、削る(磨き込むと表現する方が適切か)余地がありあまっているのに、その状態の原稿量と応募規定が許容する枚数とを見比べて、新たなエピソードや(借り物)の情報を追加するなんていうのは愚の骨頂である。少なくとも私は選考委員として、例えば800枚の作品を800枚であるという理由で400枚の作品より高く評価するなどということはない。これはおそらく他の委員も同じ考えだろうと思うが、万一そうでなければ、選考会の場で戦う。なので、これから投稿される方は、ご自身の作品を中心に考えていただきたい。自分がベストだと思う表現を、独りよがりにならず、客観性を見失わずに、適切な分量で表現していただきたいと思う。ちなみに個人的な趣向を参考までに書いておくと、当方は、短篇や中篇のように贅肉を削ぎ落としたミステリの凄味が大好きである。消化不良の情報てんこ盛り小説より、短くても研ぎ澄まされた作品を愛する。来年はそうした小説と巡り会いたいものだ。応募規定は、400枚〜800枚なのだから、そこをよく考えていただきたい。
もう一点。ご自身の作品に思い入れを深めるのはよいが、二重投稿は思いとどまるように強く言っておきたい。他の賞での落選作と判明した場合(例えば私も複数の賞で予選を担当しており、自分が一読して落選と判断した作品に出会うことも少なからずある)、プラスの評価につながることはまずない。一発屋ではなく、継続して作品を発表していくプロを目指すのであれば、落選経験を活かして新しい作品を生み出して欲しいと思う。その落選作は、プロデビューした際のネタのストックとなればよいという程度の割り切りをすべきであろう。書き上げた(そして落選した)作品に固執するのではなく、その作品を書き上げた自分に自信を持って進んでいただきたい。
さて、個別の評価を落選作から。『レミングの塔』は、ページをめくらせる力は強烈に感じた。ただし、各フロアで葛藤があり、それが一段落して次のフロアに進むというパターンが延々繰り返されるプロットは見直す必要があるだろう。結末の主張も唐突な感が否めない。『暴威の王─ultraviolenceoverlord─』は言葉遊びの面白味と、(どこまで意図しているのかは不明だが)過去の名作ミステリへのオマージュ的な小ネタの面白味がある作品。ただし、そうした遊びの要素だけでは、さすがに最終候補には残せない。『月光と猟犬のサーガ』は、絶対嗅覚の持ち主であるとか、特殊な環境の島国といった著者のオリジナルな設定を現実の世界に持ち込んでいるのだが、こうした設定の必然性や説得力が不足していたのが難点。虚構に説得力があれば、また別の評価だっただろう。『彗星群』は、外国を舞台にスケールの大きな話を書こうとした意欲は買うが、それを実際に小説として成立させるためには、セリフまわしを含め、もっともっと文章を磨いていただきたい。
続く『虚実の焔』と『鬼流院隼人探偵事務所「ネットを彷徨う亡霊を追え」』は、当方が1次通過と太鼓判を押した作品。残念ながら『虚実の焔』は長所よりも欠点を(他作品との比較という意味で)重視されてしまい、2次通過には至らなかった。読書の楽しみを伝えてくれる本作ではあるが、打たれ弱さについては1次通過コメントに記したとおり。そちらの面での改善を期待したい。『ネットを彷徨う亡霊を追え』の着眼点の鋭さについての自信はいささかも揺るいでいないのだが、他の選考委員からの批判(一例を挙げると、sendmailのバージョン固有の問題を犯人が活用するという当方が興奮したポイントに一般的な訴求力がない)への十分な説得力を備えた反論を、当方は持たなかったし、また、その他の要素がありふれすぎているという指摘もまた妥当であった。犯人のアイディアが優れていただけに、残念である。
最終選考に残った作品については、ここで多くを語る必要はないだろうが、それでもあえて書くとすると、通過7作品のうち、最も琴線に触れたのが、野生に関する十分な知識と、それを小説にする力が圧倒的であった『シャトゥーン』と、内容とサイズがマッチし、しかも展開が飽きさせない『偽りの夏童話』の2作品だった。次点は『暗闘士』。タイトルには不満が残るが、選挙戦を中心に据えて一冊乗り切った筆力は圧巻。実力のほどを感じた作品である。ついで堪能したのが『野蛮人のゲーム』『トライアル&エラー』『大地鳴動し 霊山咆哮す』である。それぞれ、卓越した描写力と着想の妙、スリリングでコンサイスな構成、天災と経済を結びつける着想が素敵であった。好感度は『トライアル&エラー』が最高。この著者は削ることを知っている。もっとも、同じ作者の第四回最終候補作の『週末のセッション』の方が今回よりシンプルで切れ味もあり好みなのだが。最後の一枠は問題作。『オーレ・ルゲイエの白い傘』は、正直なところ、よさが判らなかった。ただし、一人の委員の絶賛を博した作品であり、それはそれで重視すべき事項ということで最終選考に残した次第。一般的ではなくとも、誰かの心に深く根を下ろす作品というのも、重要なのだ。最終選考委員(および仮に出版に至った暁には読者諸兄)の一読と評価を、興味深く見守らせていただくこととしたい。















