第5回『このミス』大賞 2次選考結果 千街晶之氏コメント
読者を選びまくる作風だが、この異形の才能に惚れ込んだ!
今回は7作品も残してしまい、最終選考委員にいつもより負担をかけることになった。その責任は、他の2次予選委員が誰も褒めなかった(というか袋叩き状態だった)『オーレ・ルゲイエの白い傘』を一人で推して譲らなかった私にある。確かに読者を選びまくる作風だし、中盤のもたつきぶりなど、欠点がないとは言わない。しかし、今回の応募原稿の中でも筆力はかなりのものだったし、何よりも、型に嵌まらない発想と個性的な作風に惚れ込んだ。ベストセラーになるよりはカルト作品として少数の読者に語り継がれそうなタイプの小説なので、セールス重視の『このミス』大賞向きではないかも知れないが、このような異形の才能を2次予選の段階で落としてしまうのはやはり問題であると考えたため、敢えて最終選考に残すことに固執した。
他の6作品の中では『暗闘士』が、事件そのものはやや小粒ながらも選挙をめぐる駆け引きの描写が抜群に面白く、キャラクターの描き分けもしっかりしていて、個人的にはプッシュしたい作品である。それ以外は、『野蛮人のゲーム』は読者を引き込む力がある作品だが展開は予想がつきやすく、『シャトゥーン』は大迫力の動物パニック小説だが主人公姉弟の過去をめぐるエピソードは不要であり、『トライアル&エラー』は発想は悪くないがシリアスさと軽妙さのバランスが悪く、『大地鳴動し 霊山咆哮す』は災害シミュレーション小説としての構想は雄大だがキャラクターが余りにもステロタイプ、『偽りの夏童話』は納得度は高いが真相の見当がつきやすい……と、それぞれ一長一短あるものの、いずれも一定の水準に達していると思う。
次に落選作について。
落とすかどうかの判断で一番悩んだのは『レミングの塔』だった。罪のない大勢の人間がひどい目にあったり、残酷描写が多い……といった点は何ら問題ではない。だが、最後に明かされる犯行動機が余りに白々しく、更に言えば、犯人と作者の距離感が掴みにくいことが評価を迷わせた。その白々しさこそが現代の日本社会のリアリティである、という好意的な読み方をすることも可能ではあるのだが、果たしてそのように解釈していいものなのかどうか判断がつかず、今回は見送りとなった。ただ、大変読ませる力がある小説だったということは記しておきたい。
『暴威の王─ultraviolenceoverlord─』は、友成純一の小説すら生ぬるく感じるほどの変態と鬼畜のてんこ盛りにもかかわらず読後感はからりとしている、という貴重な作品。まどろっこしい理屈抜きのエロとグロほど爽快なものはない。とはいえ、やはりこのままでは出版は難しかろう。
それ以外の原稿は更にワンランク落ちる。比較的見どころがあった作品から順に触れると、『月光と猟犬のサーガ』は、余りにも設定に凝りすぎて必然性を見失った印象。『虚実の焔』は、展開が悪い意味で通俗的だし、××××のクローンを作るという発想には海外小説に複数の前例がある。『彗星群』は手堅い仕上がりだが、「これまでに読んだことのないような小説を読ませてやるぞ」という、いい意味でのヤマっ気が感じられなかった。『鬼流院隼人探偵事務所「ネットを彷徨う亡霊を追え」』は作者が一人で面白がっている印象で、今回唯一、最後まで読み通すのに苦痛を覚えた。賞に応募するということは、自分ではない誰か他人にその原稿を読まれるということである──という事実を再認識していただきたい。
今回、2次予選まで残った作品のほとんどに共通する欠点は、無駄な枝葉を刈り込もうと思えば幾らでも可能なのに、無理矢理800枚ぎりぎりまで引き延ばしたり、不要なエピソードを詰め込んだりしているということである(私が高く評価した『オーレ・ルゲイエの白い傘』や『暗闘士』も例外ではない)。プロの作家の小説を読んでいても、「説明がくどい」「このエピソードは無駄」と感じてしまうことは誰しもあると思う。そういった感想を、自分の作品を書く際に反映することによって、より完成度の高い原稿を仕上げられる筈である。誰が受賞するにせよ、最終選考委員の選評や編集者の意見を参考に、出版までにより隙のない作品へと磨き上げていただきたい。















