第4回『このミス』大賞 2次選考結果 村上貴史氏コメント

選考姿勢を改めて問い直されるような作品に出会った

 「格」の存在なんて認めず、「色眼鏡」も掛けない。そういうスタンスで選考には臨んでいる。要するに、本格であるという理由だけでハードボイルドより高く評価することもしないし、他の賞で最終まで残った人だからという理由で高く評価することもしないという心構えで作品と相対すると言うことだ。

 これは当然の姿勢だろうと考えるが、今回は、それを改めて問い直されるような作品に出会った。『宝妃』である。タイトルの音が示すようにオナラをネタとした小説で、馬鹿馬鹿しいといえばこれほど馬鹿馬鹿しい話もないのだが、「屁」に関して鯨統一郎の歴史解釈のような力業を展開したりするなど、とにかく最初から最後まで愉しませてくれたのだ。結論を言えば、『宝妃』はその強烈な魅力は認めるものの、爆笑小説としての完成度にやや難ありということで最終選考には残らなかった。だが、仮にこの作品の完成度が水準以上であり、例えば重厚な感涙ドラマとラスト1枠を争うことになった場合、その判断に「千二百万円にはお下劣ギャグ小説より重厚な作品の方がふさわしい」などというジャンルに優劣を付けてそれで作品の合否を判定するようなケースが生じないかということを、この『宝妃』の当落を判断するにあたって考えさせられたのだ(1次選考でこの作品を選んだ杉江松恋が「蛮勇」という言葉を使っているが、選考委員、読者、あるいは主催者など、新人賞にかかわるあらゆる局面においてパロディは不利という認識が遍在しているという認識が、その言葉を使わせたのであろう)。とりあえずこの作品がここまで残り、他の次選考委員からも一定以上の評価を得たことから、本賞がずいぶんと健全なのだと認識できて、それは嬉しいことではあった。

 さて、そうした(手前味噌を含めた?)新人賞全般の話はこのくらいにして、その『宝妃』を蹴落として最終に進んだ六作品についてのコメントを記そう。

 まず、個人的に最も高く評価したのが『週末のセッション』である。四つの視点から描かれるいささかとぼけた犯罪の物語は、伊坂幸太郎臭さがつきまとう点はさておき、実に洒脱で洗練されたミステリであった。四つの視点の循環だけで最後まで走ってしまうと言う単調さをも上手に回避している点もよい。『人体愛好会』は、リチャード・ジェサップ『シンシナティ・キッド』やレナード・ワイズ『ギャンブラー』、最近であれば冲方丁『マルドゥック・スクランブル』といったギャンブル小説として非常に面白く読める。その観点では勿論最終候補にふさわしい。しかしながら、自分の臓器を賭けるという設定が作中で大して効いておらず、それ故にタイトルも作品の魅力と著しく乖離したものとなってしまっているのは難点。修正のタイミングがあれば、修正を考えて欲しい(臓器の要素を作品とさらに絡めるか、あるいは割り切って改題するか、など)。『チーム・バチスタの崩壊』は、主人公の相棒役が登場する第二部が抜群に面白い。応募作品中最高と言ってよかろう。犯人が登場してから最終ページまでが長すぎたようにも思うが、最終選考に残すことに異論はない。『カメラ・オブスキュラ』は、人物の整理をもう少し進めて欲しいとは思うが、結末を含め魅力十分。『ツキノウラガワ』は、毒殺ミステリとしては傑出したところはさほどないが、タイトルや主人公像を含めて、そのコアを取り巻く要素がきちんと考えられており好感が持てる。しかも、人を食ったような結末も添えられており、そこもまたこちらを喜ばせてくれた。『殺人ピエロの孤島同窓会』は、とにかく次から次へとたたみかけるように何かが起こり、全く退屈させない点を評価したい。リアリティがないとか軽いとかいう物差しで測れば落第必至だろうが、ことページをめくらせるという物差しであればこの作品は実に優れている。

 その他の落選作について。『殺人ピエロの孤島同窓会』同様、数々のエピソードをテンポよく示してページをめくらせるのが『劇団「あんこう」の犯罪』だったが、読者に開示する情報の交通整理をすれば、より魅力的になっただろう。『秘密の花園』は十分に読みやすい犯罪小説であり、二千万円という中途半端な額を脅し取るという犯行にふさわしく犯人が造形されていて好感が持てたが、最終候補作がそれぞれなんらかのかたちで備えていた「傑出した魅力」に欠けた。『遠い約束』は実にかっちりした人捜し小説であり、主人公の男女ペアも魅力的に描かれていたが、『秘密の花園』と同様の理由で最終候補には至らず。残る二作は、これらと較べると明らかに一枚落ちる。『くちさけ』は、厳しい言い方をすると無難に読めるという以上の魅力(例えば謎の女の存在感の強烈さや展開の妙など)がなかったし、『熱帯に降る雨』は、ベトナムという舞台に必然性はあるものの、実は○○でした、実は××でした、で着地してがっかりさせられる。

 最後に落選作への提言を。『くちさけ』『熱帯に降る雨』のお二方は、今回の1次通過という結果を過信せずに精進いただければと思う。他の落選作の著者の方々は、これまでの受賞作を読んで大賞の水準と御自分の作品の相違を冷静に判断した上で次回作を磨きあげて応募していって欲しいと思う。これはもちろん『宝妃』の著者についても同様だが、この方については、この路線のまま完成度をとことんまで突き詰めていって欲しいという気もする。エンターテインメント界に新たな日の出をもたらしてくれそうな、そんな予感がするのだ。例え屁の香りの日の出であっても、それはそれで歓迎である。

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