第4回『このミス』大賞 2次選考結果 茶木則雄氏コメント

年々アップするレベルの高さには驚くばかりである

 新人賞の選考を自分ひとりで出来ればどんなに楽しいだろう、と思うことがある。無論、一瞬頭に浮かぶ冗談に過ぎないが、今回の次選考が紛糾する過程で、この冗談のような思いは何度も頭をよぎった。実際、他の賞の選考をやっていると、今年は何勝何敗などという話が打ち上げの席で出ることも珍しくない。

 今回最も残念だったのは『秘密の花園』が最終候補に残らなかったことだ。小味といえば小味の小説だが、冒頭からラストまで物語世界にどっぷりと浸らさせてくれる力量を捨ておくにはあまりにも惜しい。主人公をはじめとするそれぞれの人物の行動原理が説得力を持って読む側に伝わってくる。ことに資格取得予備校をリストラされた主人公の中年男の造形が抜群にいい。社会的にも家庭的にも、彼が置かれている侘しい立場が読み手の側にしかと伝わってくる。言ってしまえば、プロットも設定もありがちなものと言えなくもないが、よくある話をここまで説得力を持って展開できる才能はプロの域に近いものを充分に内包している。奥田英朗の『最悪』にも似て、淡々とした物語展開の中で主人公の運命に興味共感を抱かせることによって、ページを繰らせる力を如実に感じ取った。この人は書ける人だと思う。ミステリーとしてさほど新味を感じないとか、傑出した魅力に欠けるとの意見が他の選考委員より聞き出され、落選となった。しかしこういうありがちな話をしっかり読ませる作家は、実は貴重な存在ではないかと私は思っている。次作では傑出した描写力をぜひ見せ付けて欲しい。

 次に、議論が分かれたのは『劇団「あんこう」の犯罪』だった。アイディアは評価すべきものが充分にある。しかし、一言で言って小説としてのコクに欠けるというのが私の意見だ。謎は魅力的であるにもかかわらず、その謎の解明を早い段階で読者に提示しているため、先を読む楽しさに著しく欠ける。プロットの整理の仕方を再考して欲しい。倒叙型ミステリーにするのか、謎解きの要素を重視するのか、その辺りが中途半端である。ただこの作者は、アイディアと謎の構築力には見るべきものが充分にある。捲土重来を期待したい。

 続いて惜しいのは『宝妃』である。屁をテーマにこれだけの小説に仕立て上げる作者の根性はただものではない。しかも、おちゃらけた話のようでありながら、ストーリーの細部に気を配り、物語の世界観がしっかりと構築されている。一番重要なのは、思わず吹き出す描写が少なからずあることだ。最終選考委員が、読めなくて悔しがる顔が目に浮かぶようである。しかし、こういうタイプの作品で、新人賞に応募することは極めて不利と言わざるをえない。最終的に物語にカタルシスがあり、胸に残る何らかのものがあれば、最終に残る可能性は無論ある。しかしながらこの作品は奥行き、深みという面において他の最終候補作に劣る面は否めない。貴重なものを読ませてもらった感謝の気持ちはあるけども、さすがにこれで100万はいかがなものか、と言うのが次選考委員の一致した判断だった。

 おそらく『遠い約束』は他の新人賞であれば、問題なく最終候補に残った作品だと思う。減点法でいけば、極めて失点の少ない作品である。人物造形、ストーリー、ストーリー展開、文章力、どれをとっても水準をクリアしている。しかし残念ながら、読み終わった後、残るものが全くと言っていいほどない。再三言うようだが、こういう作品は『このミス』大賞では最も評価されにくい典型だ。どれかひとつでも突き抜けたものがないと、最終にはなかなか残れないと思う。『カメラ・オブスキュラ』との比較もあり、最終に残らなかった次第である。

 『熱帯に降る雨』『遠い約束』同様、減点の少ない作品ではあった。ベトナムを舞台にした新人賞応募作という点で、垣根涼介の『午前三時のルースター』との比較になるのもやむをえまい。が、『午前三時のルースター』に比べると、いまいち物足りなさが残る。人物造形に古臭さを感じるのが最大のマイナス点だ。

 最後に『くちさけ』である。前回応募作の『血液魚雷』を買っていただけに、今回の作品は正直言って、非常に物足りなさを感じた。仮にもすでにプロとして作品を世に出している以上、大賞を狙うには読み手がひれ伏すぐらいの力作が必要なのではないか、と個人的には思っている。今回の『くちさけ』は客観的に評価しても、1次通過レベルでしかないというのが私の意見だ。

 最終候補に残った6作品については、最終選評でじっくり語りたいが、それにしてもこの賞の年々アップするレベルの高さには驚くばかりである。仮に今回落ちた6作が最終候補であっても、私は驚かない。

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