第4回『このミス』大賞 2次選考結果 千街晶之氏コメント

絶叫を繰り返した選考会だった

 今回は結果がどうなるか、予想が極めて難しい選考会だった。ある原稿を一人の選考委員が推せば、別の選考委員は最低評価をつける――といった有様で、議論は紛糾を繰り返した(通過作が六作とやや多めなのもその結果である)。それだけ、美点も問題点も含め、極めて個性の強い原稿が多かったということであり、選考委員の立場としても、各自のミステリー観・小説観を賭けて、有意義な討論を行なえたと思う。

 そんな中、真っ先に最終選考行きが決定したのが『チーム・バチスタの崩壊』だった。医学ミステリーはさまざまな前例があるため、少々の目新しさではなかなか選考を通りにくいものだが、この作品は、冒頭の謎の魅力といい、キャラクター描写といい、風変わりな探偵役の設定といい、隅々まで行き届いた計算といい、どこを切っても及第点以上と言えよう。

 『週末のセッション』『カメラ・オブスキュラ』『ツキノウラガワ』の三作は、選考委員から満遍なく高めの評価を集めた。個人的には『カメラ・オブスキュラ』の完成度の高さ、犯人像のおぞましい迫力を推すが、他の二作も、それぞれ弱点はあるものの、先が楽しみな才気を感じさせる。

 一方、『人体愛好会』と『殺人ピエロの孤島同窓会』は、選考委員のあいだで評価が真っ二つに割れた作品である。『人体愛好会』については、どう考えても小説より漫画向きのアイディアではあるのだが、それを敢えて小説で書こうとした無謀すれすれの意欲を買いたい。『殺人ピエロの孤島同窓会』については、最終的に多数決に従ったけれども、私にはどこに見どころがあるのか全く判らない作品なので、他の選考委員のコメントを参照していただきたい。

 さて、惜しくも次選考で落とされた六作だが、実は予選を通過した作品群と較べて、極端にレヴェルが低かったというわけではない。

 完成度の高さでは『遠い約束』が抜きんでていたが、同じようにオーソドックスさと全体的な完成度の高さで勝負をかけてきた『カメラ・オブスキュラ』と比較されたのが不幸だった。応募原稿の中に似たような傾向の作品がなければ有利であり、あればどうしても比較の対象となってしまうが、こればかりは運不運である。

 逆に、他のどの応募原稿とも重ならない独自の路線で挑んできたのが『宝妃』である。脱力系ギャグの連続に呆れ返りながらも、気がつくと思わず爆笑している自分に気づかされる。楽しく読めたという点では、今回のナンバーワンかも知れない。ただ、筒井康隆や田中啓文といった先行作家の作品と較べれば、まだまだ練り込みが足りない。
 
 残り四作は、『遠い約束』『宝妃』より一段落ちる。

 『劇団「あんこう」の犯罪』は、評価が割れた作品で、私は否定派に廻った。たとえどんなに動機が善意や理想に基づいているとはいっても、所詮この犯人グループのやっていることは、障害児の誘拐という卑劣極まりないものでしかない。それを爽やかでヒューマンな犯罪であると読者に錯覚させるには相当な筆力が要求されるが、残念ながらそこまでの伎倆は感じなかった。

 『熱帯に降る雨』は、異邦に滞在する日本人と、現地の人々との価値観の落差を、ミステリーとしての仕掛けに絡めた作品。いささか地味すぎ、読んでいて気が滅入るけれども、妙に読後感があとを引く小説ではある。

 『秘密の花園』は、登場人物のやさぐれっぷりの描写にリアリティがあったが、ミステリーとしてはさほど新味を感じない。特に前半の冗長さが減点対象となった。

 『くちさけ』は、前回最終選考まで残った応募者による再挑戦だが、前作ほどの奇想に欠けるので、構成や文章の拙さばかりが印象に残った。また、この作品は今回1次選考を通った十二の応募原稿の中で、最も誤字が多い(前回、複数の選考委員からあれだけ注意されたにもかかわらず)。この応募者は既にプロとして活躍している人なので、ミスを直してくれるのは編集者や校正者の役割であると心得ているのかも知れないが、新人賞に応募するからには、全くの素人と横一列のスタートラインに立たされるのが当然。甘い心がけでは、千二百万円に手は届かないと考えていただきたい。

通過作品一覧に戻る