第4回『このミス』大賞 1次選考 次回作に期待

『我が河はやさしく流してくれ』 伊戸ひとし
『被害者は当事者に非ず』 石神秀麻呂
『ナンバリング・キラー』 藤高祥
『天神の八咫烏』 日向マサキ
『キャッツ・エレジィ』 マック相原

村上貴史コメント

例年と同じく、水準の高い応募作は少なくなかった。だが、それらの作品のなかでも、2次選考に進んだ二作品が、頭一つ抜けていたのである。

選に漏れたなかでも惜しいのが『我が河はやさしく流してくれ』である。ある男の半生を描いた犯罪小説だ。若い頃の殺人を経て、人生の後半に至った現在まで、運命に翻弄されつつも、そのなかでなんとか主体的に動いていく主役が魅力的に描かれている。だが、問題はその主役にある。彼は人生の後半を業界新聞の一員として過ごすのだが、その才能に説得力がない。エクセルを使ってデータを分析した、というだけでは、業界人たちが彼を評価するには不十分であろう。主役が作品の要であるだけに、その造形の甘さがマイナス評価となった。全体的な構成は非常に魅力的だっただけに惜しまれる。題名ももうひとつ歯切れが悪い。

その他、惜しい作品をいくつか。『被害者は当事者に非ず』は、少年による凶悪犯罪を扱い、犯罪被害者の苦悩を描いた小説として読ませるが、このパターンの応募作はほぼ毎回と言っていいほど送られてくるのである。それらのいずれもが、現状の法制度の問題を指摘することにとどまっており、それ以上のエンターテインメントとしての仕掛けがない。本作にも同様の欠点がある。読ませる力はあるので、もう一つ大きな視野から、何を書くべきか考えてみていただければと思う。まずは今年の江戸川乱歩賞【天使のナイフ】を読んでみてはいかがか。少年による凶悪犯罪の問題をミステリとして消化する良質なテキストとなるので。『ナンバリング・キラー』は、連続殺人とミッシングリンクという基本的な道具立てを使ったミステリ。探偵役に好感が持てるが、ある分野の専門家に犯人が仕掛けるトリックの実現性に疑問が残った。『天神の八咫鴉』は、大正から昭和に至る時代を舞台とした剣術アクション小説。筆力はかなりのもの。ストーリーも堅実だが、もっと冒険があってよかったようにも思う。PCを操るといったとんでもない才能を持つ猫が登場する『キャッツ・エレジィ』にも同種の不満がある。猫の存在以上に面白い物語を用意してほしかった。

ここに記した作品群、いずれも愉しく読めただけに、なおさらもう一歩の飛躍が足りなかったのが残念。「次回作に期待」なのである。

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