第4回『このミス』大賞 1次選考 次回作に期待

『日輪の墓標』 上條武士
『Robot達の憂鬱』 林藤一郎
『明日へ架ける橋』 秋本直一郎

膳所善造コメント

全体的な水準は、年々間違いなく底上げされてきています。日本語以前、小説以前という作品は、今回ほとんどありませんでした。 ただし、ずば抜けた作品というのはそうそう書けるものではなく、1次予選を通した二作以外は、やはり、どこかしら及ばない点があります。そんな中から、あと一歩という作品についてコメントします。

上條武士『日輪の墓標』――第1回の1次選考を通過された方ですね。前回の派手な冒険活劇小説とはうって変わって、今回は太平洋戦争末期の神戸を舞台に、収容所からのアメリカ人捕虜脱走事件に絡む陰謀劇を抑制のきいた筆致で描いています。題材に新味があり、陰謀劇の真相も面白いのですが、エンターテインメントとしては若干地味であり、かつ少々物語を急ぎすぎたきらいがあります。もっと細部の肉付けを行い、ストーリーを膨らませて欲しかった。たとえば、戦地で部下を死なせ一人生き残った自分を許せない工藤中尉。主人公である彼を支える役回りとして登場したはずの女性との絡みは、もっと掘り下げるべきでしょう。小説書きとしての基本は押さえている方なので、あと一歩だと思います。

林藤一郎『Robot達の憂鬱』――ヒューマノイド・ロボットの開発にかける男たちの情熱、苦闘、勝利、そして挫折を描いた、ちょっと変わったタイプのエンターテインメントです。人型ロボットの知能中枢システム開発のキーを握るブラックボックス「パンドラ」。その秘められた謎を解き明かすべく家電メーカーの研究開発員たちが、試行錯誤を重ね奔走するところが読みどころです。こうした最先端技術をベースにした小説は、説明不足か逆に説明過多に陥り、物語として未消化になりがちです。この点、本作は若干のもたつきはあるものの、まずまずうまく処理しており、物語を第一義に考えている姿勢に好感が持てました。ただし、一編のミステリとして見た場合、謎の要素が弱いのは否めません。後半、モニター家庭にロボットが配布されてからのドラマも駆け足気味であり、結末の処理にももう一工夫欲しかったです。

秋本直一郎『明日へ架ける橋』――物語の随所に村上春樹の『ノルウェイの森』が引用されていることからも明らかなように、氏の作風に非常に大きな影響を受けた作品です。あとは本多孝好の諸作品でしょうか。世の中に完全なオリジナルなどというものはありません。無論、小説もしかり。偉大な先行作品に対する模倣やオマージュから、新たな傑作が生まれた例は枚挙にいとまがありません。ただしそこには、なんらかの新しさ、その作者だけが持つサムシングが必要です。実はこの作品からもその”何か”は感じられました。それは、弱冠十四歳という作者の若さが、いい方面に出た結果だと思います。ではなぜ、1次を通過しなかったのかというと、設定の不自然さ、前後の辻褄の不整合、主人公の造形の幼さなど、小説としての破綻が多すぎたためです。才能のある方だと思うので、これであきらめることなく、再度チャレンジされることを望みます。その際、春樹作品から一歩引いて世界を見ることも大切です。

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