第4回『このミス』大賞 1次選考 次回作に期待

『エトランゼ』 空島悠記
『不老不死』 深野カムイ
『輪になって回れ』 佐藤好剛

杉江松恋コメント

『エトランゼ』
講道館柔道の達人黒岩敬太が1913年のパリを訪ねたことから始まる時代冒険小説。留学中の島崎藤村をはじめ、当時のパリに集ったであろう異邦人たちを次々に登場させていく虚実織り交ぜた物語作りには感服しました。非常に巧い。反面、主人公を武道家にしたことの興趣という点では物足りなさを感じました。講道館柔道に関しては今野敏『山嵐』という優れた先行作があるだけに、時代を背負った柔道家の肖像が描かれることを読者は期待します。そこの存在意義が希薄であり、なぜ彼が柔道家でなければならなかったのかが不明です。ボクシングとレスリングの経験者との異種格闘技戦が、まるで現在のバーリトゥードのように見えるのも、時代に沿った主人公像を構築し損ねたためでしょう。主人公の内的動機が物語の推進力にならなければ、正しき怪男児小説とは言えないのです。

『不老不死』
第3回の最終選考に残った方ですね。大柄な物語を、うまく手綱をさばいて書いておられたと思います。中国人密航船の死亡事件に端を発し、ある女性の出生の秘密へとつながっていくストーリーは、起伏も多くエンタテインメントとしては確かな仕上がりになっていたと思います。反面、現実との接点を小説の中で模索していく手順に不満を感じました。たとえば、結末の意外性を演出する道具として終盤に持ち出してくる病名。水戸黄門の印籠のように、このギミックに頼りすぎています。登場人物を御するために使う小道具としては、あまりに重いものだったのではないでしょうか。どうしてもご都合主義という印象を禁じ得ませんでした。またこの作品に関していえば、やや冗長にすぎるという印象もあります。いたずらに大作化させることの弊害を知ってください。

『輪になって回れ』
ひさしぶりの同窓会が、思い出の場所再訪に発展する。その場所はかつて監獄として使用された建築物だった、という冒頭には期待したのですが、後は残念な展開に。禁断の地探検にときめく子供たちの心を描くわけでもなく、過ぎた年月の重みを事件から学ぶわけでもなく、誠に平板に物語は流れていきます。消費されていきます。また、なぜ円形の監獄が築かれたのか、死刑制度に絡めた説明がなされていますが、現実感に乏しく、同じ日本の出来事とは思えません。最後に延々と続く回想場面も、視点統一を図れずに放り出してしまったという印象を与え、マイナスでしょう。ワンアイデアで書くには、ちょっと荷が重い題材だったと思います。

今回は全般的に水準が高く、出だしを読んですぐに止めたくなるというような作品はほとんどありませんでした。それゆえに選考には苦労をしたというのが実情です。回を追うごとに応募作が高度化してきていることを予選委員の一人として嬉しく思います。次回の応募作が今から楽しみです。

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