第4回『このミス』大賞 1次通過作品

『秘密の花園』 矢南戯介

 ちょっと変わった題材を扱った犯罪小説です。組織の不正をネタに大金をせしめようとする犯罪者たちの計画立案から挫折、実行そして結末を描くのは、犯罪小説の定番の一つですが、公的資格試験問題の横流しというのは珍しい。

 資格取得予備校をリストラされた後、一年間で三つもの会社をクビになり、タクシー運転手になるための試験にも落ち続ける山岡。金に困った彼は、バイト先で知り合った元編集プロダクション社員・鷹野に、自らが関わってきた不正行為を買い取って欲しいと持ちかけます。それは、流通業界で唯一の公的資格として認められている「販売実務士」検定の試験問題が、山岡の勤めていた予備校に漏洩しているというものでした。彼は入社以来三十年間、制作委員との窓口としてこの裏稼業を担当していたのです。そんな彼に対して鷹野は、マスコミにリークするよりもいっそ、予備校の理事長を脅迫した方が金になると提案。理事長から理不尽ないじめにあってやめさせられた山岡に異存はなく、かくて、素人コンビによる二千万円奪取計画が幕を開けます。

 いかにして金をせしめるか。このタイプの小説のキモはこの一点にかかっています。他の部分がどれだけ優れていても、これが陳腐ではミステリとしての面白さは半減してしまいますが、この作者は、ひょっとして実行可能なのではと思われる新手を考案してきました。これがなかなかいいのです。

 また、この手のストーリーに欠かせない、ハプニングをもたらす第三の人物として理事長の愛人・冴子を設定。彼女による、もう一つ別の脅迫事件を絡めることで、ストーリーにふくらみと意外性を持たせ、最後まで一気に読ませます。冴えない中年コンビの再生譚としての面白さもあり、まずは一級の娯楽小説に仕上がっています。

(膳所善造)

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