第4回『このミス』大賞 1次通過作品

『遠い約束』 野口 奏

 銀行をリストラされたフリーターの直人。直人の叔父である平井耕三が先月亡くなったが、彼は、家族に告げずに単身渡米し、そこで出会った男から日本での人捜しを依頼されていたという。耕三は、死の直前まで捜していた「ナツコ」という人物にどこまで迫っていたのか?直人は、耕三の娘である佐和子とともに、ナツコの行方を捜し始める……。

 骨格としては、直人と佐和子によるストレートな人捜し小説である。関係者を訪ね歩き、丹念に証言を集め、そして思考することの積み重ねを描いた小説なのである。そうしたシンプルな構造でありながら、この作品は実に読ませる。まるで飽きさせない。それどころか、次々とページをめくらせるのである。それだけ構成が見事だということだろう。ヒントを得たり隘路に陥ったり、派手さは全くないが、実に心地よいリズムで、読者に二人の捜査行を愉しませてくれるのだ。

 そのうえで、この作品にはベトナム戦争に赴いた若者たちという要素もしっかりと織り込まれている。これがまた作品に深みをもたらす要因となっているのだ。こちらもまたベトナム戦争ネタをこれ見よがしにひけらかす作りにはなっておらず、著者の謙虚さがひしひしと伝わってきた。

 こうした要素を読者に伝えてくれるキャラクターもまた魅力的だ。老若男女問わず、いずれもしっかりとした存在として、周囲に実際にいても不思議ではない人々として描かれている。

 やたらと奇怪な設定やら特異な能力やら奇矯な人物を登場させることで物語を加速させようという応募作が多いなか、この作品は無骨なまでの直球勝負であった。そして、その直球は、とてつもない威力を備えていたのである。けばけばしく厚化粧したへなちょこ変化球をさしおいて1次を通過するのも当然である。

(村上貴史)

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