第4回『このミス』大賞 1次通過作品

『ツキノウラガワ』 多々忠正

 パーティでの毒殺を描いた、ストレートな本格ミステリー。

 陽菜は、常に要領よく立ち回ってきた双子の妹・晴奈を嫌悪していた。うまく他人に取り入るのが得意な晴奈の、本当の顔を知っていたから。序章はこんな言葉でしめくくられる──「晴奈なんて死んでしまえばいい」。

 その晴奈が、夫の転勤で渡米することに。夫婦と陽菜を含む八人の男女が、ささやかな歓送会に集まった。事件はその席上で起きた。コーヒーを飲んだ晴奈が倒れ、やがて息を引き取ったのだ。カップには毒物が混入されていた。八つのカップのうち、毒が盛られていたのはただ一つ。そして、コーヒーに毒を入れる機会は誰にもなかったはずだった。誰が、どうやって毒を入れたのか?どうやって彼女に毒入りカップを手に取らせたのか?素人探偵や刑事たちによる、さまざまな可能性の検討が、この作品の読みどころである。

 正直なところ、途中で犯人が分かる人は少なくないだろう。それでも、その計算され尽くした犯行計画は実に印象深い。関係者がどんな人物なのかを踏まえた上で組み立てられた、犯人の「人を見る目」に支えられた仕掛けなのだ。そしてこの作品には、そんな仕掛けを読者に納得させるだけの人物描写が盛り込まれている。

 物語は、主に被害者の姉・陽菜の視点から語られる。彼女が真相を探ろうとする動機がユニークだ──犯人に共感したから。常に仮面を被っていた晴奈を殺したのだから、犯人はその素顔に気づいているのではないか。本当の晴奈を知る者どうし、じっくり話し合ってみたい──なんともひねくれた理由である。そんな主人公を擁していながら、物語は温かいユーモアに包まれている。特に最終章には笑ってしまった。月への想いから幕を開けた物語が、まさかそんなところに着地するとは。このユーモアこそが、作者の持ち味だろう。選考委員だけが楽しむのはあまりにもったいないので、こうして推す次第。

(古山裕樹)

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