第4回『このミス』大賞 1次通過作品

『カメラ・オブスキュラ』 真仲恭平

 主人公の若者が、父親探しを通じて、自身の進む道をつかみ取ってゆく物語だ。

 写真家を目指す溝口直樹は、探偵事務所の浮気調査や人捜しを手伝いながら、廃墟の写真を撮る日々を過ごしていた。ある日、彼は謎めいた手紙を受け取る。手紙の主は直樹の写真のファンで、彼にプレゼントを用意したという。同封されていた写真には、奇妙なデザインの廃屋が写っていた。なぜかその廃屋に心奪われた直樹は、カメラを手に奥多摩へと向かう。廃屋の中で直樹が見つけたのは、デスマスクのような仮面を填められた女性の死体だった。警察の調べで、被害者の女性の身元が判明し、直樹とも意外なつながりがあったことが分かった。そして問題の廃屋は、直樹にとってはおぼろげな記憶しかない、二十年前に失踪した父が設計したものだった。いっぽう、奇妙な手紙はその後も届けられる。直樹は、彼の生活に覆い被さる父の影と対峙する……。

 父の影に立ち向かうというメインのストーリーは、奇妙な手紙の差出人によって、サスペンスに満ちたものになっている。奇矯な建築家だった父の素顔をたどる探索行と響き合い、ミステリーとして読み応えのある展開を見せてくれる。

 その脇を固めるエピソードもまた、魅力に富んでいる。探偵としての活動は、アメリカのミステリーで活躍する私立探偵に比べればずいぶん地味だが、ディテールが描き込まれていて飽きさせない。また、父親代わりでもある探偵事務所の小沢をはじめとする、直樹の身近な人々も印象深い。そしてもちろん、写真家としての道を模索する直樹の姿がある。どんな写真家になるのか、という自身への問い。事件の解明は、図らずも直樹の進む道に影響を及ぼすのだ。

 「父親探し」という骨格に、丁寧な肉付けが施された小説である。陰惨な妄執を描きながら、主人公の成長を絡めて読後感の爽やかな作品に仕上げている。

(古山裕樹)

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