第4回『このミス』大賞 1次通過作品

『劇団「あんこう」の犯罪』 三田村学

 劇団、あんこう、犯罪。なんだか三題噺みたいな題名だ。今回の応募作には印象に残る題名が多かったけれど、これはその中でもかなり上位に位置する。

 さて、劇場型犯罪なんて言葉もあるけれど、この作品に登場する誘拐犯たちは自ら「劇団」を名乗る。そう、彼らが行う「犯罪」とは誘拐。そのターゲットは、養護学校に通う自閉症の男の子である。ああ、なんて卑怯な連中だ! ……ところが不思議なことに、彼らの活躍(といっていいだろう)にはあまり卑怯さが感じられない。プロローグで作者自身が書いているように、「ちょっと浮遊感があって」「どこかユーモラス」なのだ。

 劇団を名乗るだけに、観客を魅了することも忘れない。マスコミを利用して、警察を手玉にとって、さらにはインターネットを使って世間をも動かしてしまう。数々の誘拐ミステリーと同じく、身代金をめぐる劇団と警察の駆け引きは、作品の最大の見せ場である。本来は「犯罪者」のはずなのに、劇団の鮮やかなパフォーマンスには、思わず快哉を叫んでしまう。

 さて、身代金の支払いを要求されるのは、地元で事業を営む会社社長。実は、我が子の障害をあるがままに受け入れることができないという悩みを抱えていた。彼と家族との関係が事件を通じて変わってゆくさまも、この作品の読みどころの一つである。実はこの作品、けっこう真摯なテーマを扱っているのだ。だが、重さをまったく感じさせない。物語のトーンはあくまでも軽やかである。それは、劇団「あんこう」が「観客」を意識しているように、この作品の作者が読者のことを強く意識しているからだろう。物語は、さまざまな人物の視点から語られる。自閉症の子を持つ父や養護学校の教員といった人々はもちろん、犯人側の描写も多い。視点を移して、双方の手の内を明かすことで対決の緊張感を高め、しかも手の内を明かしながら意外な展開で読者を驚かせてみせるのだ。

 読む者を捕らえて放さない優れた演出に、大きな拍手を贈りたい。

(古山裕樹)

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