第4回『このミス』大賞 1次通過作品

『宝妃(ほうひ)』 若王子泉

 この作品を残すに当たっては、かなりの逡巡を伴ったことを告白します。もしかしたら2次選考委員の方には叱られるかも。でもいいや、おもしろかったんだからしかたない。

 現役女子大生アイドルの松尾霧華は、ある日突然休業宣言をして失踪してしまう。実はそれは彼女の特殊能力を見込んだCIAのしわざだった。アメリカのネヴァダ州にあるソノラ砂漠に、地球外生命体が突如来襲したのだという。エイリアンにはアメリカ軍の攻撃がまったく通じない。だがふとしたことから、彼らに意外な弱点があることが判明した。霧華の特殊能力は、その弱点を攻略するための突破口となるはずなのだ……。

 ええと、叱られる前に言っておきますが、その特殊能力というのは「屁」です、屁。おなら。宇宙人は、人間のおならを浴びると死んでしまうのである。CIAは霧華を含む放屁の達人を鹿児島県にある施設に集め(なんで鹿児島県かというとさつまいもの産地だから)、対宇宙人戦の訓練を積ませる。だいたいこのくだりを読んだあたりで、読者はものすごい脱力感に囚われるはずだ。題名だってよく考えるとダジャレだしね。しかし、作者は大真面目である。真面目に運命の車輪を回し続ける。この小説は伝奇小説の文脈にものすごく忠実なのだ。主人公の過去には必ず事件につながる因果関係がある、世界の起源に連なる秘密がそこに隠されている、成長した主人公がその秘密の扉を押し開けることになる、などなど。物語の中には、先行作品への敬意の念も十分に示されている。例えば半村良の名作『産霊山秘録』。あの話に出てくるのは実は〈ヒ〉一族ではなくて〈ヘ〉一族が正しかったんですって。なんだか半村ファンの怒りを買いそうだけど、そうなんですってば!

 ものすごい冒険かもしれないが、このぬけぬけとした書きっぷりを私は評価したい。新人賞にあえて伝奇小説のパロディで挑戦する勇気も買う。もしかしたら蛮勇かもしれないけどさ。でも私は大いに笑わせてもらったのだ。

(杉江松恋)

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