第4回『このミス』大賞 1次通過作品

『週末のセッション』 伊薗 旬

 一読して、ちょっとこじんまりしすぎているかな、と思った。しかし読み返してみて、こういう端整な作りの作品を評価することが大事なのだ、と思い返した。減点法ではなく加点法で見れば、非常に魅力のある小説である。

 ウロボロスの蛇のような小説である。お互いに相手の尻尾を飲み込んでいく蛇は、最後にはどうなってしまうのか。たがいに食いあって、同時に消滅してしまうのか。四人の男たちの身の上に、大金を必要とする事情が生じるのである。インサイダー取引の疑惑をかけられそうになる証券アナリスト、双子の弟の借金を引き受けさせられた建築士、突然の事故賠償請求により起業独立の資金を失いかけた商社マン、離婚と資産分与の要求を受けた会社経営者。彼らはそれぞれに事態打破の計画を練る。皮肉なことに、それは同じように突然窮地に陥った他の誰かを騙す計画となってしまうのである。ウロボロスの蛇のように、彼らはお互いの尻尾を食い合う。各人の計画は徐々に進行していき、蛇の環は次第に円周を狭めていく。それが完全に閉じたとき、どのような結果が待っているのか。

 非常に贅沢な小説でもあるのです。四人の男たちが、それぞれに詐術の企みを抱く話なので、四つのゲームが楽しめる。お話が四つ詰まっているようなものなので、これはお得であるといえるでしょう。逆にその構造が裏目に出ているという観方もある。それぞれのゲームの視点人物の他に四つのゲームを観察する神の視点が必要となるため対象と距離を置いた書き方をせざるを得ない。どうしてもその分だけ、読者の共感を阻むんですよね。切実感にも欠ける。これは小説の構造上の問題だから解決のしようがないことなのだ。

 そうした欠点はあるのだが、この抑制の利いた書きっぷりを無駄にしてしまうのはあまりにも惜しい。この構成力が将来花開くだろうという期待もある。将来性こみで推したいと思います。

(杉江松恋)

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