第4回『このミス』大賞 1次通過作品

『くちさけ』 町井登志夫

 この『くちさけ』の作者は、第2回小松左京賞および第3回講談社ホワイトハート大賞優秀賞を受賞している町井登志夫。この人の作品を既に何作か読んだことがあり、しかもそれが割りと好みだったため、結構期待して読み始めた。

 そういう場合、えてして期待が大き過ぎて肩透かしをくらったりするものだが、本作品は違った。十二分に楽しんで読めたのである。

 町井登志夫氏は、昨年も『血液魚雷』という作品で『このミス』大賞に応募しており、惜しくも受賞こそ逃したものの、某社から刊行が予定されていると仄聞した。この『血液魚雷』は、応募時の推薦文によれば小松左京賞の受賞作家らしくSFミステリだったが、今回の『くちさけ』はがらりと変わり、SF色のないサイコサスペンスである。

 タイトルからもお分かりの通り、本作は都市伝説の「口裂け女」を正面から扱っている。マスクをしていて、それを取ると口が裂けていて、ものすごいスピードで走って、人を襲う――というアレである。

 医者の渡会温子は、アルバイトで当直をしている際、口を裂かれた救急患者の搬送に遭遇する。そのうち、温子はいくつかの事件の共通点に気付いた。そして事件のたびに現場に現れる謎の中年女性は、マスクにサングラスという姿だった。いつしかその女は「口裂け女」と呼ばれるようになる。温子は、フリーの事件記者だがアル中の川池力夫と出逢った。川池もまた「口裂け女」事件に遭遇し、調査を進めていたのだ。だが遂に口裂け女は、温子の存在に気付いたのが、彼女に対して行動を起こしてくるのだった……。

 口裂け女の正体は何なのか、そしてこれから先どうなるのか、という謎が読者をとらえて放さない。一方、人の生とは何か、死とは何かを問い続ける作品でもある。

(北原尚彦)

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