第1回『このミス』大賞 2次選考結果 千街晶之氏コメント

磨きをかけて再チャレンジを

 まず、2次選考を通過した6作品について述べたい。

 『熱砂に死す』だが、これだけ起伏に乏しい物語を、最後まで退屈させずに読ませる筆力は大したものである。選考では「余りにもクサい」という意見も出たが、その青臭さがテーマなのだから仕方ないだろうし、むしろそのセンチメンタリズムに得難い個性を感じた。ただしエンタテインメントとしては、もう少し話にメリハリがあった方がいいだろう。

 『そのケータイは、XXで』は、相当無茶な話だし、文章も下手である。しかし、読み手を物語世界に引きずり込む妙なパワーはある。ハードカバーで出すような小説ではないが、ノベルス向きというか、B級のアナーキーな面白さが横溢している。

 『沈むさかな』は、イメージ喚起力のある文章に独自の魅力が存在する。二人称という語りには幾つかの前例があるが、この作品の場合、一人称では最後に明かされるトリックを成立させるのは不可能に近いし、かといって三人称でも難しいだろう。事件の背景となる陰謀にはいささか荒唐無稽なところもあるが、幻想的な雰囲気のせいで、さして気にならない。

 『タード・オン・ザ・ラン』は、前半の語り口のセンスに感心した。ところが、主人公たちが脱獄してからの展開は、破綻しているとしか思えない。せっかく前半から登場しているキャラクターが活写されているのに、ファム・ファタル的な悪女を含め、後半になって登場するキャラクターが書き割りめいて実在感に乏しいのも減点対象。ただ、全篇にみなぎるパワーには凄味がある。

 『四日間の奇蹟』は、文章の完成度では候補作中随一だろう。本筋のアクシデントが発生するのは実に物語の半ばに達してからなのだが、そこに至るまでの部分でも弛緩することのない筆力に舌を巻いた。問題は、この作品が果たしてミステリーなのかどうかという点。東野圭吾の『秘密』を連想させずにはおかない設定だが、『秘密』よりもミステリー度は低い。ミステリー系の賞より、小説すばる新人賞あたりに相応しいように思える。

 『俄探偵の憂鬱な日々』は、最も多くのミステリー的なネタが詰め込まれ、話の纏まりも良い。悪党だが憎めない二人組の言動もいきいきしている。彼らが探偵事務所で働いている点に必然性を感じられなかったが、それくらいは瑕瑾(かきん)か。ただ、新人賞の受賞作に相応しい華には欠けるかもしれない。

 以上6作以外では、『花は紅』『その名は零』『かふぇ ど あるけにい』『セピアの翼』の4作に、予選通過作品に迫り得たかもしれないという可能性を感じた。『花は紅』はミステリーとしての骨格は悪くないし、警察組織におけるキャリアとノンキャリアの対立というありふれた題材を更に一ひねりした才気も買いたいが、最後に悪役が(さしたる必然性もなく)ぺらぺら喋ってしまうことで真相が明らかになるという構成の拙さが致命傷となった。ミステリーにおいて謎解きは一番盛り上がる要素なのだから、単なる説明のための説明であってはならない。『その名は零』は大きな弱点もなく、纏まりの良い小説だが、読み手を作品世界に没頭させるだけの勢いに欠ける。『かふぇ ど あるけにい』は、戦前日本の浪漫の世界を彷徨するかに見せかけて、実はミステリー的に着地するという狙いに感心したが、日本語としてちょっと如何なものかという表現が散見されて評価を下げた(例えば、「大地震自身」という表現はどうか。「じしん」と発音する言葉がふたつ続くのも美しくないし、地震は人間ではないのだから「自身」ではなく「自体」であるべきだろう)。こういう耽美系の小説では、他のタイプの小説ではまだしも許される文章上の瑕が致命傷となり得るということを覚えておいていただきたい。『セピアの翼』は、選考でも「好感が持てる」という意見が続出した作品で、確かにキャラクター造型には感心したが、このネタで長篇一本を読ませるには相当な筆力を要する。カンニングの謎解きに焦点を絞るか、青春小説的な部分に比重を傾けるか、いずれかを選べば、もっとピリッと締まった小説になったと思う。

 他の作品は、忌憚なく言えば眼高手低の印象を免れなかった。いくら波乱に富んだストーリーを思いついたからといって、それをそのまま書いても面白い小説にはならない。高級素材を使ったからといって、誰でも美味い料理を作れるとは限らないのと同様である。小説はストーリーの単なる説明であってはならない。こんな事件が起きました、次にこんな出来事が起こりました、さあ面白いでしょう……と言われても読者は困るだけなので、作者の感興を読者に伝達するための表現力を身につけていただく必要がある。ただ、どの作品も、新人賞の1次選考通過作としてはかなり高い水準に達していることも事実。せっかくの才能なのだからぜひ磨きをかけて、今後もチャレンジしていただきたい。