第1回『このミス』大賞 2次選考結果 茶木則雄氏コメント
レベルの高い候補作が揃った!
前評判通りである。他の新人賞と比べても近年になく、レベルの高い候補作が揃った。募集期間が半年足らずだったことを考えると、これは嬉しい誤算と言わざるを得ない。
激戦を勝ち抜いた最終候補作については、本選考会の席上で、じっくり語りたいと思う。ここでは捲土重来を期して、惜しくも選に洩れた1次選考通過作品に触れてみたい。
個人的に最も惜しまれるのは、『花は紅』である。文章力、構成力、細部の確かさは、充分、最終候補のレベルにあった。タイトルおよび筆致は志水辰夫を、公安内部の暗闘を絡めた警察小説的興趣は大沢在昌『新宿鮫』を、ハードボイルドの方向性と主人公の造型は北方謙三を、それぞれ意識したものと思われるが、本家の域にはいまだ距離がある。一言で言えば、手堅くはあるけれど、全体的に新鮮味に欠ける印象を受けた。後半が淡白な点――ことに謎の核心に迫るアプローチの安易さは、マイナス要因として明記しておく。しかし他の新人賞であれば、過去の経験から言って間違いなく、最終選考に残った応募作だと思う。次回はオリジナリティに富む意欲的作品で、ぜひ再挑戦していただきたい。
現役の大学生による応募作『セピアの翼』は、その若さに似合わぬ確かな人物造型と瑞々しい筆致が、最大の魅力であった。高校生を主人公にした青春学園小説として、実に好感の持てる作品に仕上がっている。カンニングという“日常の謎”をテーマにしたミステリー的手法も悪くない。ただ惜しむらくは、最後のどんでん返しがリアリティを台無しにしていることだ。真犯人とも言うべき人物の「犯行」の動機に、あまりにも説得力がなさ過ぎる。意外性を狙ったのだろうが、最後の詰めがこれでは画竜点睛を欠く、と言われても仕方あるまい。ただし将来性は、大いに買う。次回作をこれまたぜひ、読ませて欲しい。
読み始めた途端、これはっ、と思わせたのが『媚薬』である。トボケた筆致といい破天荒なストーリー展開といい、実に斬新な魅力に富む書き出しであった。だが先に行くに従って、期待はもろくも崩れる。全体に「描写」が薄く、「説明」が長いためだ。「描写」と「説明」の違いを解説すると長くなるが、簡単に言えば、登場人物の職業や年齢をそのまま書くのが「説明」で、それをストーリーのなかでごく自然に、読者に分からせるのが「描写」である。本作はまるで、長い長い梗概を読まされているような気分であった。アイディアと筆致に見るべきものがあるだけに、惜しまれる作品である。
残念ながら『リマインド』と『羊たちの眠れる森』には、魅力を感じられない。1次を通過した作品だからそれなりの長所もあるが、選考会で指摘された欠点の数々――散漫な構成、説得力のない動機、魅力に乏しいキャラクター造型など――は、如何ともし難い。最大の欠点は、両者とも文章がいかにも稚拙な点だ。厳しい言い方をするようだが、まずは文章力を磨くべきだろう。
問題は残りの二作、『かふぇ ど あるけにい』と『その名は零』である。
「それは、コーヒーが媚薬であった、最後の時代の物語……」という印象的な書き出しではじまる『かふぇ ど あるけにい』は、戦前のデカダンスを背景に、幻想的かつ耽美的な世界と本格ミステリー的興趣を融合させた作品である。いささか適確さを欠く、やや無神経な言葉遣いも散見されるが、そのリズム感溢れる文体の妙は、1次レベルとしては特筆されて然るべきだろう。美少女、ロリコン、やおい系部分がシラケる、という意見もあったが、全体的レベルは充分、2次選考に値する作品であった。
また『その名は零』は、『鷲は舞い降りた』や『ベルリン飛行指令』の系列に連なる大戦秘話物冒険小説として、なかなかに読ませる作品に仕上がっている。新鮮味はないが完成度の高さにおいては、最終候補に残してもおかしくないレベルだと思う。ディテールも確かだし、『A10奪還チーム出動せよ』を彷彿させるクライマックスのカー・アクション・シーンも、出色とは言えないまでもそれなりの迫力があった。
ただこの二作には、大きなマイナス要因がある。一度、もしくは二度、他の新人賞に応募して落選した作品であるという点だ。新人賞の予選委員に兼任が少なくないのは、こうしたチェック機能を働かせるためでもある。
無論、これが選に洩れた理由のすべてではない。一度落ちた作品を改稿のうえ他の賞に応募することは、厳密な意味でのルール違反には当たらないからだ。が、こうした作品は、選考の過程で明らかなハンデキャップを抱えることになる。大賞レベルに達した作品でもない限り、それが分かった時点で、まずもって最終候補には残れないだろう。これは他の賞でも同じである。改稿を繰り返して同じ作品を応募する作者は、将来性に乏しいと判断されるからだ。作家志望者は厳に、戒めるべき行為と銘記されたい。
最後に少しだけ、最終候補作について触れておく。
輝かしい“原石の魅力”を感じさせる作品があった。抜群のリーダビリティを誇る、斬新なエンターテインメントがあった。そして何よりも、出会えたことを感謝したくなる、感涙の傑作ファンタジーがあった。
今から本選考会が、楽しみでならない。















